【5.2L V12か2.0L 直4か】ジャガーXJ-Sとロータス・エリート 1970年代のGT 前編
公開 : 2020.06.06 07:20 更新 : 2020.12.08 11:04
ジャガーXJ-Sとロータス・エリート。排気量や容姿は異なる2台ですが、共通する内面を備えているとするのは英国編集部。誕生から50年も近づいてきた、少しいびつな構成が与えられたグランドツアラーを比較しました。
新規顧客の獲得を狙った2台
一見すると不釣り合いなカップルにも見える、ジャガーXJ-Sとロータス・エリート。どちらも生まれは1970年代で、定員4名のグランドツアラーだ。
行く先不透明な英国だが、自動車を取り巻く環境も厳しく、少なくともこの先10年間は楽観視できない。そんな今だから、この2台には何か発見があるかもしれない。
2台ともに安全性が重視され、当初作られたのはクーペボディのみ。家庭や仕事の道具として活躍できる、実用性。両車の祖先といえる、スポーツカーのEタイプと初代エランとは、異なる方向性が与えられていた。
1960年代までに、国の宝と呼べるブランドへ成長したジャガーとロータス。しかしXJ-Sとエリートは、古いオーナーからは厳しい意見が向けられるモデルだった。
新規顧客の獲得を狙っていた2台。欧州のグランドツアラーの人気にあやかり、ラグジュアリーな4シーター・クーペに、高い金額を支払う客がいると考えたのだ。
ガソリン価格が高騰する中で、パフォーマンス・モデルを考えたコーリン・チャップマン。燃費に優れた、最高速度202km/hのグランドツアラーを作るムードにあると判断した。当時、どれだけの人が環境意識を持っていたのかはわからないが。
一方のジャガーは、倹約的なグランドツアラーは考えていなかった。それでも、XJ-Sはファッションや社会的な変化は意識していたのだろう。ポストEタイプと呼べる、新しいフラッグシップ・スーパークーペを必要としていた。
高い価格に賛否両論のデザイン
英国ではなく、ドイツ・フランクフルトでの発表は、国際的な志向を映している。インパクトのあるキャッチコピーを用いた、大規模な広告展開が打たれた。「1975年9月10日、モデナとシュツットガルト、トリノは、ブラックデー(不吉な日)になる」
確かに、1975年に登場したジャガーXJ-Sは、大物といえるクルマだった。上昇するガソリン価格と厳しくなる速度規制にあって、4.9km/Lの燃費と、246km/hの最高速度は、時代錯誤に受け止められた。
XJのフロアパンを短くし、剛性を高め、ロングノーズ・ショートデッキのボディを載せているXJ-S。サスペンションもXJのものだ。エキゾチックなジャガーは、スタイリングの好みも別れた。
それまでジャガーの工場から生まれたクルマとは、一線を画すボディデザインだった。特に賛否両論となったのが、リアクォーターのフィンのように立ち上がったピラー、フライング・バットレス。
エンジニアのマルコム・セイヤーは、ファッションではなく、空力的な目的で付加した。楕円形のヘッドライトと、無骨な黒いバンパーも、強い個性を構成している。低くかがんだスタンスとプロポーションは、ジャガーらしくもある。
XJ-Sの価格も、従来のジャガーを塗り替えた。当時9000ポンドという数字は、欧州大陸の主なライバルモデルに並ぶか、それ以上の金額だった。