【5.2L V12か2.0L 直4か】ジャガーXJ-Sとロータス・エリート 1970年代のGT 前編
公開 : 2020.06.06 07:20 更新 : 2020.12.08 11:04
フェラーリの走行性能にリムジンの快適性
ウィリアム・ライオンズ時代からの変化のタイミングで登場したXJ-S。ライバルより優れている面も多いが、良い評価は得られなかった。むしろ、あるアメリカの自動車メディアからは、「今の交通条件では、見事なほどに過剰性能」 とレポートされている。
アメリカでは、ドイツ製の優れたV型8気筒や直列6気筒エンジンへ人気が集まっていた。排気量5.2Lの、ルーカス製フュエルインジェクションを備えたV型12気筒を必要とする人はいなかった。
フェラーリやランボルギーニ級の走行性能に、リムジンのような静寂性と洗練性を備えた、ワイド&ローなグランドツアラー。ジャガーが生み出したのは、そんなクルマだった。
スペック上は、イタリア製のV12を見劣りさせる内容ではあった。メルセデス・ベンツやBMWを超える快適性も備えていた。450SLCと比べれば、スピードや洗練性は勝り、燃費は同程度だのだから。
そんなXJ-Sの英国製ライバルとなったのが、ロータス・エリート。アストン マーティンやジェンセンなど、一部の少量生産モデルを除いて。
1974年の春に登場した時の価格は、6700ポンド。75型のロータス・エリートは、世界で最も高価な4気筒エンジン・モデルだった。コーリン・チャップマンが長年考えていた、高級車でもあった。
ジャガーXJ-Sと並べると、馬力は131ps、シリンダー数は8本、排気量は3.0L少ない。だが、価格はXJ-Sに迫る。
ウェッジシェイプの本格的な4シーター
空気抵抗の小さい、本格的な4シーター。デザインはモダンなウェッジシェイプ。ライバルモデルより車重は数百kgも軽量で、エンジンは157psを発生し、燃費は14.5km/L。小さな正面面積と高めのギア比によって、160km/hの速度での航続も可能だ。
エリートが搭載する1973ccのツインカムエンジンは、タイプ907と呼ばれ、ジェンセン・ヒーレーにも搭載されたユニット。コーリン・チャップマンが生み出した、バックボーンシャシーにFRPボディというレシピとの相性も良い。
ボディは、チャップマンが開発を進めていたムーンレーカー・ボートの製造方法を取り入れ、ウエストラインを境に上下2分割で成形されている。優れた耐衝撃性構造は、北米や欧州での衝突安全基準も簡単にクリアした。
リアサスペンションは、ドライブシャフトがアッパーリンクも兼ねる設計。距離を重ねると、ディファレンシャルのシールやハブキャリアに不具合が出た。オーナーにとっては、今も悩みのタネだ。
XJ-Sはオプションも少なくモノグレードだったが、エリートは3種類のトリムグレードを用意。 501、502、503に別れ、パワーステアリングかエアコン、その両方の搭載を指定できた。1976年になると、ATを搭載した504も追加されている。
くさび形のエリートは、1982年までに2500台が製造された。その後、エクセルに置き換わる。エクセルはエクラの改良版といえるモデルで、エリートに並ぶ荷室を備えたファストバック・スタイル。個性は強くないものの、エリートより広い支持を得た。