【トップ交代】アストン マーティン 新CEOトビアス・ムアースがもたらすものとは
公開 : 2020.05.28 11:50
約6年に渡り、アストン マーティンに貢献してきたアンディ・パーマーが退任します。その後任となる、現メルセデスAMGのCEOトビアス・ムアースが、苦境に陥ったメーカーに何をもたらすことができるかを考えていきます。
アストン マーティンのトップ交代
約6年間、アストン マーティン・ラゴンダの社長兼CEOを務めてきた、アンディ・パーマーの進退がここ数か月話題となっていた。
2018年にパーマーの主導で行った株式公開(IPO)以降、同社の株は19ポンドと大幅に値上がりしたため価値は半分となり、それ以降は下落していた。
また、5億4000万ポンド(713億円)の投資をもたらした、1月にエグゼクティブ・チェアマンに就任した、カナダの億万長者ローレンス・ストロールからは、クルマの過剰供給、アストンバッジの潜水艦およびマイアミの不動産への過剰な関与などが、次々と指摘されている。
パーマーの後任として、すでにアストン マーティンの5%の株式を保有し、エンジン、電子機器、蓄積されたノウハウを持つ、ダイムラーのパフォーマンス部門である、メルセデスAMGの最高経営責任者、トビアス・ムアースが任命されている。
新CEOトビアス・ムアース
ムアースは、26年前にAMGに入社し、エンジニアとして多くの実績を残してきた。
また高性能モデルの製造と販売で成功をおさめ、広く経験を積んでいる。
7年間務めたマネージングディレクターの役割は、ダイムラーの幹部にとって重要なトレーニングの場と見なされており、現在のダイムラーの会長でメルセデス・ベンツの責任者であるオラ・ケレニウスも、同じ職位を経験している。
最も重要なコンポーネントのサプライヤーとして、ビジネスについての十分な実用的な知識を備えてきたはずだ。
AMGのエンジンとハードウェアのプロバイダーとしてのアストン マーティンの価値を考えると、ダイムラーはアストン マーティンとの関係を、強化する必要があるだろう。
カルロスゴーン型のコストカッターであったカレニウスと、洗練されたクルマを求めるムアースの関係は、常にスムーズだったわけではなかったと、関係者は話している。
ムアースの就任に続き、ストロールのシルバーストン・ベースのレーシング・ポイントF1チームが、来年からアストンマーティンに改称することもあり、アストン マーティンが英国企業であり続けることができるかが疑問視されている。
アンディ・パーマーの功績
同社の期待の新製品、DBX SUVの世界に向けた発売を延期せざるを得なくなるなど、アストン マーティンとパーマーが置かれた状況は、新型コロナウイルスの危機によってさらに悪化してきた。
ハイエンドモデルの需要はパンデミック以前から減少傾向にあり、フェラーリを含む多くの高級車メーカーは厳しい状況にある。
いずれにせよ、2014年に日産からやってきたパーマーが、楽観的で創造性の高い新しい雰囲気を創り上げ、数か月以内に「セカンドセンチュリープラン」を作成した、6年間に渡る貢献は特記すべきものだろう。
3年以内に、パーマーは、アストン マーティンの既存のモデルバリエーションを更新し、長年停滞していたラゴンダを、収益性の高いブランドとして復活させた。
何よりも重要なのは、DBXの製造を主導し、サウスウェールズのセントアサンに製造のための新しい工場を開設したことだろう。
この印象的な高級SUVは、世界的な需要が維持されれば、同社の運命を変えるモデルとなる可能性がある。
パーマー自身は、アストン マーティンでの功績によって大幅に豊かになったとされているが、計画半ばにして職務を離れるのは無念だろう。
現在、アストン マーティンが非常に深刻な状況に陥っているのは事実だが、パーマーが同社を最終的な成功への道に導いたという証はほかにもまだあるかもしれない。