【未発表だったフランス生まれのクーペ】ドライエ135MS CLスペシャリエ 後編
公開 : 2020.06.07 20:50 更新 : 2020.12.08 11:04
フランスのコーチビルダー、ファジェ・ヴァルネが生み出した、1台限りのプロトタイプ。フランスの自動車メーカー、ドライエ社とファセル社を両親とする、珍しい血筋を持っています。レストアされた美しい姿をご紹介しましょう。
細部まで手が加えられた美しい姿
フォード・コメットをベースに、コーチビルダーのファジェ・ヴァルネが手を加えたボディ。ドライエ135MS CLスペシャリエ・プロトタイプは美しい。
フロントフェンダーのトップラインは、フロントガラス直前まで伸ばされ、ホイールアーチもワイドになった。ザガートのスポーティなデザインにつながる造形にも見える。
ボンネットは一新され、エンジンルームからの熱気を排出するため、後ろ向きに2本のエアベントが付けられた。ドアの形状も注意深く手直しされ、開口部のラインも変更された。コメットのかまぼこ状の断面を持つ、四角いドアとは対照的ですらある。
リアフェンダーは、フロントのフレアアーチを反復。クロームメッキの細いトリムがボディの縁に付けられ、フォルムを強調している。
ルーフはフォード・コメットの3ピースより軽量に作られた。リアウインドウは大きく湾曲している。
さらにヘッドライトやテールライト、バンパー、ホイールにグリルなど、細かな部分も多くが新しく作り直された。全体のフォルムをまとめるだけでなく、日常の走行にも欠かせない機能部品だ。
インテリアは、内装のパネルとダッシュボードがオリジナル。ステアリングホイールは、1951年のドライエ235プロトタイプに用いられたものと同じ。最後の仕上げといえるのが、インビジブル(見えない)と呼ばれたサンルーフ。
ファセル・ヴェガHK500へとつながる
完成したドライエ135MS CLスペシャリエ・プロトタイプは、見事にフォード・コメットとのつながりを感じさせない。反面、ドライエ235との近さは、ステアリングホイールだけではない。
ステアリング・ラックのテストも目的とされており、後のドライエ・タイプ235のシャシーへこのボディが架装されることが前提だった事実を示している。油圧ブレーキもその証拠。ドライエ135には搭載されていない、現代的な装備だった。
理由は定かではないが、完成したドライエ135MS CLスペシャリエは、1953年の自動車ショー、パリ・サロンに出展されなかった。当時の関係者はすでにこの世を去っており、確かめることは難しい。
完成したプロトタイプは、発表されないままファジェ・ヴァルネを設立したジャン・ファジェの手元に残った。1954年、ドライエより一足先に活動を止めたコーチビルダー、ファジェ・ヴァルネの素晴らしい芸術性を示す遺作として。
ドライエ社とタイプ235も1954年に幕を閉じるが、プロトタイプ・クーペの運命は違った。この135MS CLスペシャリエは、1958年発表のファセル・ヴェガHK500へとつながる。フォード・コメットとルーフラインが似ている理由でもあった。
実際、ボディ下部の構造だけでなく、ヒンジも含めたドアやボンネットまで、量産されたファセル・ヴェガと、ほとんど同一と呼べるものだった。エンジンルームやファイアウォールの設計、ルーフラインも同様だ。