【詳細データテスト】ポルシェ・カイエン 二兎を追う者は一兎をも得ず 元凶は重さ
公開 : 2020.06.06 08:50 更新 : 2022.06.22 14:32
操舵/快適性 ★★★★★★★★☆☆
気取った宣伝文句のようで恐縮だが、この巨体のハイブリッドカーは、そのステアリングに有り余るほどポルシェのDNAが息づいていることを感じさせる。
おおまかにならば、競合する大型SUVに、これ以上に正確な舵の効きと優れたボディコントロールを兼ね備えるものは見つけられないといえる。ただし、レンジローバー・スポーツはこれよりおおらかなクルマでありながら、かなり肉薄している。
やはり、英国を走るならデフォルトのハイブリッドモードがベストな選択だ。高精度ながらソフトタッチな動きは、この国の道路によく合っている。それだけに、スポーツモードやスポーツプラスモードは必要ないとさえ思えた。
とはいいながらも切り替えてみると、よりハードなモードを選ぶにつれ、エアサスペンションは徐々に硬く、スロットルレスポンスはシャープになり、駆動力配分も変わる。
また、ブレーキを用いるトルクベクタリングが目を覚まして、より速いコーナリングを可能にするが、まるでそれは、いまどき流行らないアグレッシブに効くLSDみたいだ。
スポーツプラスモードで攻めると、ポルシェを持ってしてもこのクルマをこれ以上速くするのは無理だっただろうとさえ思わされる。あとはボディをフルカーボンにでもして、大幅に軽量化するくらいしか策はなさそうだ。
そう、問題は重さだ。すばらしく処理してはいるが、それでも強烈な重量が減るわけではない。カーボンセラミックのディスクと10ポットのキャリパー、そしてじつに整ったボディの挙動をもってしても、それをカバーし切れるものではないのだ。
接地面積は大きく、駆動系は素早く反応する。それゆえ論理的に考えれば、ステアリングとスロットルの操作さえ正しければ、路面から引き剥がされることはなさそうだという結論が導き出されるだろう。
とはいえ、背中の神経と脳は、なにか間違いがあったらそれが解き放たれるだろう物理的な力の大きさを、常にセンシングしている。それだけに、走り続けていると精神的に消耗する。
というのも、このカイエンは速く走ることを望むクルマで、ドライバーはそれをしょっちゅう思い知らされるからだ。レンジローバーなら、そのようなことはない。だからこそ、たいていの場合はそちらの英国製SUVのほうが、より好ましい相棒になってくれる。
そうしたすべてのことが、ターボS E-ハイブリッドを一芸にのみ長けたクルマにしている。より下位グレードで重量が軽く、そしてこれが重要なのだが、よりしなやかなカイエンほどドライビングに満足感はない。
しかし、このクルマにできることを本当に知りたければ、とんでもないペースで飛ばさなければならない。ちょっとばかり『理由なき反抗』みたいだ。そして、このクルマが完全にナチュラルだといえるのは、パワーオーバーステアにいたったときだということがよくわかった。