【父のレーシングカーと再会】シムカ1000ラリー2 息子が手掛けた修復 前編

公開 : 2020.06.20 07:20  更新 : 2020.12.08 11:04

父の写真を見ていた時から、いつか自分のクルマになるだろうと確信していたと話す現オーナー。数十年を経て、その息子が運転することが叶ったシムカ。丁寧なレストアを経て復活した珍しい1台に、英国編集部が試乗しました。

外見から想像もつかない激しいサウンド

text:Richard Heseltine(リチャード・ヘーゼルタイン)
photo:Manuel Portugal(マニュエル・ポルトガル)
translation:Kenji Nakajima(中嶋健治)

 
どこまで続くのかわからない、狭い道。大きく広がる山脈へ消えていく。今回選んだ道路は、レーシングカーを評価するのに理想的な場所とはいえないだろう。

手前へ視線を落とすと、少しくたびれた、黄色のシムカが目に入る。価値があるというよりは、貴重なクルマといった方が良い。見る人次第かもしれないが。

シムカ1000ラリー2(1973年−1978年)
シムカ1000ラリー2(1973年−1978年)

外見からは想像もつかない、激しいサウンドがカラムロの山へ響き渡る。最初に抱いた印象が覆される。排気量1.3Lの4気筒エンジンが放つ音響は力強い。最高出力は87ps程度しかないのに。

むき出しのボディには、ノイズを減らしてくれる防音材が一切ない。路面を強く掴むタイヤと、簡単には縮んでくれないダンパー。このクルマの前では、一般的な考えは通用しない。

オーナーのジョアン・ラセルダは、このシムカ1000ラリー2をゴーカートに例える。確かに、そう思えなくもない。

リアから放たれるサウンドは忙しない。ツイン・ウェーバー・キャブレターは元気な吸気音を鳴らす。激しく響くエグゾーストノートが、聴覚の混乱をさらに加勢する。

4速マニュアルの変速は、入りは少しあいまいながら、ストロークは短い。変速は難しくなく、年齢を重ねたクルマを急き立てて走らせる気にさせる。

ペダルの間隔は狭く、位置は少しオフセットしており、足首を変な角度に曲げる必要がある。ダブル・クラッチの操作もしにくい。

超が付くほどダイレクトなステアリング

フロントの荷重が大きいが、シムカ1000ラリー2の動きは素早い。ステアリングは、あまり充分な情報が伝わってこないものの、超を付けたくなるほどにダイレクトだ。

しばらく走らせて気持ちの高まりが解けると、小さなシムカが持つ可能性が見え始める。とても考えの寛大なオーナー、ラセルダ。取材に同行したスタッフも、このクルマに交代で乗る。誰もが、絶賛のコメントともに降りてくる。

シムカ1000ラリー2(1973年−1978年)
シムカ1000ラリー2(1973年−1978年)

ヒルクライムのコースを30分ほど、激しく走り込んだ。坂を登り、カーブを下る度に、小さなロケットに対する気持ちが大きくなっていく。

とても機敏で軽快。車重は860kg程しかないらしい。この道を走り慣れた、地元の人が運転するハッチバックを追い越すのは大変だとしても、運転がとても楽しい。

ポルトガル北部、ヒルクライムのコースは、平日で空いたカラムロの大通りを抜ける。優れたドライビング技術や才能だけでなく、土地勘も必要だ。

オーナーのラセルダにとって、ポルトガルの美しいこの地域は、地元と呼べる場所。毎日の通勤で走る道でもある。

小さなシムカは、2011年に全面的なレストアが終了して以来、歴史あるヒルクライムコースで活躍を繰り返している。シムカは常に全力で走っている。ラセルダは、クルマに投じた以上の情熱を、このコースへ傾けている。

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