マクラーレンP1

公開 : 2013.09.24 23:58  更新 : 2017.05.29 19:11

灼熱のサーキットでの過酷なテスト

すでにマクラーレンP1はその生産準備は整っているが、私はカリフォルニアで行われるその最終的な炎天下でのテストを行う開発チームに同行した。一日のほとんどをウィロー・スプリングス・インターナショナル・レースウェイで行われた、マクラーレンのテスト・ドライバー、フィル・クアイフェと時間を共にした。

このウィロー・スプリングスは、1周2.5マイル(約4km)のバンクの多くチャレンジングな、しかもパンピーなアスファルトと壊れた縁石を持つサーキットだ。例えばブレーキをロックさせてしまうと、コース端の荒っぽい砂が待ち構えていることになる。しかし、私はこのようなサーキットが実は好きだ。60年の歴史を持つ、陽の光に満ち溢れた魅力的なサーキットと言える。

サーキットの事務所では、1982年2月にナイジェル・マンセルがこのコースのレコードを作ったことが記されていた。そのタイムは1分6秒3。平均速度は219km/hになる。1980年代のF-1マシンでそれだけのタイムを出した勇敢さにしばし考えを及ぼす。しかし、今回のマクラーレンのテストは、記録を作ることではない。

主な目的は、幸運にもP1を手にする375人のユーザーの中でも、P1をサーキットに持ち込むユーザーのためのテストである。この新しいマクラーレンのスポーツカーは、ベスト・ドライバーズ・カーであるためにデザインされ、その熱心なオーナーがサーキットでレースを愉しむことも想定されているからだ。

1ダースほどのラップをこなした後、クールダウンする時間も惜しんで開発チームは、彼らの想定している計算が正しかったかどうかを、暑く陽が燦々と降り注ぐコースサイドでシミュレートしていたのである。

XP7に乗り込む

テスト・ドライバーのクアイフェは、数ラップはデータ収集の目的のためにきまったペースでの周回を重ねている。テスト・チームは満足しているだろうが、P1の有り余るパワーとトルク、そしてエアロダイナミクス・パフォーマンスを完全に解放できないことへの落胆が彼に見られる。しかも、27歳の彼は今、私という余分なバラストを積んで走行しているのだ。

実はこの試乗が行われたのは7月上旬のこと。マクラーレンのエンジニアによるテストも最終段階に入った頃で、部外者はそのプロトタイプに触れることも許されなかった時だ。しかし、私は幸いなことに、そのパッセンジャー・シートに座ることが許されたのだった。

このXP7というコードネームを持ったこの個体は、大量のシミュレーション・データを確認するためのプロトタイプである。3週間にわたって、テスト・チームは明け方から夕方まで働いていた。ここアメリカでにテストも終わりに近づいたということで、同乗する機会を得たのだが、とても神経質なジャーナリストを歓迎してくれているという雰囲気ではない。完全にアウェー状態だ。

クアイフェのマクラーレンでのテスト・ドライバー歴はほぼ2年。チーフ・テスト・ドライバーのクリス・グッドウィンと共に働いてきた経歴を持つ。

さて、本当の楽しみだ。但し、私がそのコクピット・スペースに身体を滑り込ませることができれば、という話だが(笑)。事実、車高の低いスポーツカーに乗り込むのは、決して優雅な手順ではこなせない。しかも、このテストカーには様々なワイヤーを持つテレメトリー・システムが満載されている。それを不器用によけながら、コクピットにどうにか入り込んだというわけだ。

XP7には、HVACという略語で表されるヒーター、ベンチレーション、エアコンのデータを集める目的もあり、1400kgのボディはやや重くなると同時に、アップデートされたエアロ・キットが装着されていない。それでも、ステルス爆撃機のようなブラックにペイントされ、カルフォルニアの太陽の下で佇む姿は、はやり£866,000(1億3800万円)という価格に見合うだけのものがある。

シートベルトを締めて、ヘルメットを被された私は、キャビンをやっと眺めることができた。それは、ほぼプロダクション・モデルといったものだ。データ収集機器を収めるために、いくつかの部分は切り取られているが、センター・コントロール・インターフェイスやタービン・スタイルのエア・ベンチレーションなどは12Cでも認識できたスタイルだ。

スタートする前にクアイフェはステアリング・ホイールの上の親指の位置にある、ドラッグを減らし一時的によりパワーをアシストするためのキー・コントロールを示した。それはP1のドライビング・モード切り替えスイッチの直ぐ近くにレイアウトされている。

「まず、このクルマの狙いのひとつとして、世界で最も優れたハンドリングを持つクルマに仕上がっているということが挙げられる。しかも、それはサーキットでも一般の路上においても。」

「パワー・ブースト・ボタンと、モード切り替えスイッチのコンビネーションによっては、あなたが想像するとおり、非常にチャレンジングなセッティングとなる。ちなみに、このスイッチで切り替えられるのは、ノーマル、スポーツ、サーキット、そしてレースといったモードだ。」

快適なドライブをコンフォート・モードで味わいながらサーキットに向かい、そこに到着したら、このスイッチをレース・モードに切り替えれば良いというわけだ。そうすれば、車高は下がり、リア・ウイングはより多くのダウンフォースを発生するようにセットされる。

「このモード切り替えによって、ステリアングのタッチも大きく変わる。ノーマル・モードでは、そのアシストはこの手のクルマとしては大きい。しかし、レース・モードになれば、より重くなると同時に、路面のフィーリングをより多く伝えるようになるのだ。」

いよいよパッセンジャー・ラップへ

クアイフェは、いよいよP1をピットロードからバンピーでダスティなコースへと進める。

その加速は驚くべきもので、私の身体は深くバケットシートに沈み込む。3.8ℓツインターボV8からの727bhpと電気モーターからの176bhpに、心の準備をしなければならなかった。しかし、実際のところスタートから100km/hまで僅かに3秒で達してしまうそのパワーには準備していても驚かされることだろう。まさにステロイド級のモンスターだ。ツインターボ・エンジンのウエスト・ゲート・バルブからの気持よいパフューンというサウンドがうるさく感じられる。

しかし、最も驚くべきはそのグリップ・レベルの高さだ。ウィロー・スプリングスの第1コーナーは、バンクを持った90°の左コーナーだ。そしてラビット・イヤーと呼ばれるコーナーへと続く。少なくとも2つの頂点がそこにはある。このセクションで、P1は異常とも言えるスピードを見せた。

クアイフェの第2ターンへの進入速度を感じた私は、これはいくら専用のピレリPゼロを履いたP1であっても、アンダーステアになると確信したのだ。しかし、結果は、まったく落ち着きを失うことなくグリップを保ったままコーナーをクリアしてしまったのである。

特定の状況のおいては、P1とてトラクションを失うケースはある。タイトな低速で抜ける左コーナーでは、クアイフェは若干スロットルを開け、ステアリングをミリセコンドほどカウンターをあてるのだ。

モンロー・リッジとネーミングされたターン6は、P1の本当の実力が発揮されるコーナーだ。見通しのわるい低い位置からブラインドとなっている高速ターンである。しかし、P1は至極簡単に地面に食いついたままの姿勢でコーナーを抜けてしまった。

実際に私にはストレートでそのぐらいの速度がマークされていたかはわからない。しかし、常に加速が終わる前に次のコーナーに差し掛かってしまっていた。

クアイフェはちらりと私の方を見た。穏やかな表情だ。また、彼のステアリングさばきは、流れるようで、素早く、ポジティブだ。

最終セクションは、2つの右コーナーの複合カーブだ。そして比較的長く深いコーナーが続く。クアイフェは、待って、待って、待って、コーナーの立ち上がりが見えると、フルスロットルを与え、縁石ギリギリに立ち上がっていった。

P1の持つ本当の実力とは

カストロール・コーナーは、ヘビーなブレーキングが要求さえるコーナーだ。しかし、日本の曙ブレーキによって開発されたウルトラ・タフなシリコン・カーバイドが練りこまれたカーボン・セラミック・ディスクの効きは素晴らしいのひとことだった。

私は、WRCカーにも、BTCCマシンにも、ダカール・ラリー・モデルにも、そしてル・マン・レーサーをドライブした経験がある。確かにそれらのマシンはとてつもなく速かった。しかし、その目的はひとつ。すべてのコストが勝つことに向けられているのだ。勝利さえ納められれば、そのエンジン・サウンドが壊れたスパナが入っているかのようなものでも全く問題にならない。

しかし、P1の目的は違う。単にサーキットで速いだけでは駄目なのだ。オーナーをぞくぞくとさせるようなものではなくては、マクラーレン・テクノロジー・センターにデポジットを払った人々は満足しないだろう。シルバーストン・サーキットを走行するのと同様に、ウェイトローズへの旅行の際にも、同じような経験がなければならないのだ。

私はスポーツカー・レースやGTレースで経験豊かなクアイフェが、サーキット・テストで “マキシマム・アタック” モードを使わないのか不思議でならなかった。しかし、彼らにとって、限界点でのコンポーネンツやシステムをテストすることはさして重要でないということが何となくわかったような気がした。

「P1を購入するのはプロ・ドライバーでない。従って、ステアリングやスロットル、そしてブレーキングは少々雑かもしれない。それに対処しなければならないのだ。」と彼は言う。

「サーキットを滑らかにドライブしている時はESPは全く干渉してこない。しかし、少し乱暴にドライブすれば、ESPはドライバーが知らないうちにそのスライドを抑える必要があるのだ。」とも語った。

「われわれはシステムがバッググラウンドで上手く機能し、クルマとしての動きがコントロールできることを望んでいるのだ。」

P1を裏の裏まで知っているクアイフェとのラップは、自分でドライブするよりも多くのことを得られたのかもしれない。P1のオーナーは、その巨大なパフォーマンスを持っているにもかかわらず不安がないようにセッティングをしてくれた彼らに感謝しなくてはならないだろう。

後は、375人の幸運なオーナーが、個人的なコレクションにP1を仕舞いこむことがないように望むだけだ。P1は、結局はドライブされてこそ本領を発揮するクルマなのだから。

(マット・バート)

マクラーレンP1

価格 9661万5000円(日本国内価格)
最高速度 349km/h
0-100km/h加速 3.0秒
燃費 NA
CO2排出量 200g/km以下
乾燥重量 1395kg
エンジン V型8気筒3799ccツインターボ+モーター
最高出力 916ps/7500rpm
最大トルク 91.8kg-m /4000rpm
ギアボックス 7速デュアルクラッチ

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