【不世出の個性】アルファ・ロメオ4C、惜しまれる終焉 なぜ「奇跡の1台」と言えるのか

公開 : 2020.06.15 05:50  更新 : 2021.10.13 15:49

理性+破壊=エンターテイメント

シャシーをカーボンで作る意味は剛性と軽さの両立にある。

実際にアルファ・ロメオ4Cを走らせてみると、ライトウエイトスポーツ的な軽快感よりもカーボン筐体特有のカンッカンッと打てば響くような硬さが前面に感じられる。ハンドリングも中立付近から敏感で、正確無比な匂いがプンプンとする。

アルファ・ロメオ4Cスパイダー
アルファ・ロメオ4Cスパイダー    田村 翔

もしドライバーの背中にV10やV12がタテ方向に載っていれば、これはもうハイパースポーツカーなのだ! と思わずにはいられない。

だが高速道路に合流し、スロットルを踏み込んでみると、4Cで最もコストが掛かっているであろうシャシーを包み込むほどの個性がしゃしゃり出てくる。

1.75Lというアルファ伝統の排気量を与えられたターボ・エンジンである。昨今のターボはリッター200ps近くてもターボラグがまろやかに感じられたりするものだが、4Cのそれは違う。

まるでフェラーリF40のように、4000rpmの手前でリアタイヤのグリップを破壊せんばかりのターボキックが襲ってくるのだ。

どこまでも正確無比たらんとするカーボンシャシーの理性を、気まぐれな乱暴者的ターボ・エンジンが破壊しに掛かる矛盾、もしくはマトリモニオ(結婚)。

これこそステアリングを握る手が大いにジワる4Cの危うい正体。イタリアン・ミドシップ特有のエンターテイメントの発露なのである。

4Cは将来の名車「クラシック」に?

今どきのスタビリティコントロールは備えているが、それでもウェット路面やヘタクソドライバーとは相性が悪そうなアルファ・ロメオ4C。

この飛び切り辛口のライトウエイトスポーツカーの生産終了は残念なことだが、当のアルファ・ロメオはホッとしているのかもしれない。

アルファ・ロメオ4Cスパイダー
アルファ・ロメオ4Cスパイダー    田村 翔

この手のモデルはブランドのプロパガンダにはなるが、商売としてはまるで美味しくないシロモノ(作れば作るほど赤字?)と相場が決まっているからだ。

もしあなたが生粋のクルマ趣味人であるならば、今というタイミングを逃してはならないだろう。

アルファ・ロメオの歴史のみならず、昨今の自動車界全体の流れを鑑みた場合にも、4Cは将来の名車、「クラシック」として扱われる公算が大きいからである。

アルファ・ロメオ4Cというクルマは少しだけ敷居が下がってきたカーボンモノコック・シャシーと、厳しくなる一方の排ガス規制で牙を抜かれる直前のガソリン・エンジンの一瞬の交錯によって産み落とされた奇跡の1台。

だからこそ4Cに続編はないのだ。

新型アルピーヌ的な調和は捨てがたいが、数に限りのある不世出の個性と比べることはできまい。

ヘタクソを自認する人でもチャンスがあればマストバイ。ウデは後からいくらでも付いてくる(?)。たぶん。

記事に関わった人々

  • 吉田拓生

    Takuo Yoshida

    1972年生まれ。編集部員を経てモータリングライターとして独立。新旧あらゆるクルマの評価が得意。MGBとMGミジェット(レーシング)が趣味車。フィアット・パンダ4x4/メルセデスBクラスがアシグルマ。森に棲み、畑を耕し蜜蜂の世話をし、薪を割るカントリーライフの実践者でもあるため、農道のポルシェ(スバル・サンバー・トラック)を溺愛。
  • 田村翔

    Sho Tamura

    1990年生まれ。東京工芸大学芸術学部写真学科卒業後、2013〜2020年までアフロスポーツのメンバーとして活動。2020年よりフリーに転向。光と影を生かしながらレーシングカーやアスリートの「美」と、報道的かつ芸術性を追求した表現を目指し、モータースポーツと国内外のスポーツ競技を撮影する。日本レース写真家協会(JRPA)会員/日本スポーツ写真協会(JSPA)会員。

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