【よろこんでいる場合じゃない】スズキ・ジムニーの納期、今も最大1年半「待ち」 理由は「過小評価」
公開 : 2020.06.20 05:50 更新 : 2021.10.22 10:15
SUVの原点回帰が生じことも理由に
納期が縮まらない理由は、ジムニーの人気が安定的に高く、なおかつ生産規模が小さいからだ。
今はSUVがブームで、新車として売られるクルマの約15%を占める。ミニバンと同等の販売規模だ。
2010年以前のSUV比率は約5%だったから、車種数の増加もあって売れ筋カテゴリーに成長した。
そして今のSUVには、乗用車と同じ前輪駆動のプラットフォームを使うシティ派モデルが多い。
ホンダ・ヴェゼル、トヨタC-HR、マツダCX-5などはその典型で、見た目、舗装路における走行性能と乗り心地、居住性や積載性をバランス良く造り込んで人気を得た。
ただしシティ派SUVが、最近になって少々飽きられ始めていることも確かだ。この影響でSUVの人気に原点回帰が見られ、RAV4やライズといったオフロードSUV風の車種が好調に売れている。
もともとSUVは、三菱ジープ、トヨタ・ランドクルーザー、日産パトロール(後のサファリ)といったオフロードモデルから出発した。
RAV4とライズは前輪駆動ベースのSUVだから、分類上はシティ派だが、外観は後輪駆動ベースのオフロードモデル風だ。
SUVの本質が追求されるようになったため、軽自動車サイズでそれを得られるジムニーの人気が急騰した。
このようにSUVの原点回帰が生じた事情も考えると、ジムニーの1か月に1250台という販売目標台数は少なすぎた。
そもそもジムニーがフルモデルチェンジを受ける直前の2017年(暦年)でも、1か月平均で1124台を届け出していたのだ。1250台では少ないのは当然だろう。
しかも2018年のフルモデルチェンジは、20年ぶりだったので、待ちかねていたユーザーも多い。これら複数の理由で需要が生産規模を大幅に上まわり、納期が長期間にわたって著しく遅延した。
スズキ自身、ジムニー人気を過小評価
ここまで納期が遅延したら、さらに生産規模を増やせば良いのに、なぜそれをしないのか。
納期遅延が問題になった2019年6月頃、スズキに尋ねた。
「既に発売当初に比べると生産規模を増やしており、これ以上は難しい。仮にさらに生産量を拡大すると、需要が下がった時に、余剰な生産設備を抱えることになってしまう」
新車の需要はいつ下がるかわからず、今後は少子高齢化もある。今の段階ではジムニーの納期が1年に達しても、生産規模はこれ以上増やせない考えだ。
しかし好調な需要は今後も続く。理由はジムニーが軽自動車であるからだ。
軽自動車は主に生活のツールとして、1人に1台の割合で所有されることが多い。そうなると今まで使ってきた軽自動車を下取りに出して新車を買う。
新車が発売され、ユーザーが飛び付くように購入して、その後に需要が急落するスポーツカーとは販売台数の推移が根本的に違う。
そうなるとジムニーの潜在需要は今でも多く、今後も安定的に売れ続ける。納期の遅延も続くわけだ。
スズキは薄利多売の軽自動車が中心のメーカーだから、他社以上に納期の遅延を嫌ってきた。スズキの社員からは「納期が3か月以上に伸びたら、鈴木修会長から叱られる」という声も聞かれた。
その意味でジムニーの納期遅延は、きわめて珍しいケースといえるだろう。
ジムニーの人気をスズキ自身が過小評価していたことになる。それだけジムニーが偉大なクルマというわけだが、前述のように納期の遅延はユーザーに迷惑を掛ける。
「行列のできるジムニー」と喜ぶわけにはいかない。