【グランプリレーサーから4シーターへ転身】マセラティ・ティーポ26 前編
公開 : 2020.07.05 07:20 更新 : 2022.08.08 07:39
F1の前進となるグランプリ・マシンをベースに、4シーターへ改造されたマセラティ・ティーポ26。サーキットで速さを競ったあと、セカンドキャリアとしてグランドツアラーへ転身した、貴重な1台をご紹介しましょう。
もくじ
ーグランプリレーサーがベースの特別なティーポ26
ー150mm長いシャシーに4シーター
ー火のついた爆弾のように走ったマセラティ
ーアルファ・ロメオ8Cが最大のライバル
ーアイリッシュ・グランプリでの激闘
グランプリレーサーがベースの特別なティーポ26
F1の前進となるグランプリ・マシンの牙をやや削り、高性能な2シーター・スポーツカーへ改造する手法は、自動車黎明期では一般的なものだった。だが、スーパーチャージャーを搭載した4シーターへ改める例は、当時でも珍しい。
1920年代から1930年代初めにかけて、メルセデス・ベンツはSタイプ、アルファ・ロメオは8Cという、名声高い長距離レーサーを生み出した。戦前のエキゾチック・スポーツとして、マセラティ・ティーポ26スポーツも、輝いた存在だった。
1930年代初めの英国で最もハイレベルなレース、ブルックランズ・ダブル・トウェルブとアイリッシュ・グランプリのために作られた、ロングシャシーの貴重なマシンがある。わずか2台だけが作られた特別なティーポ26で、1台だけが、今も現存している。
ビジネスで成功した資金力と、エンスージァストからの熱い支持を得ていたマセラティ。イタリア・ボローニャの小さなファクトリーで、競争力の高いツインカム・マシンをハンドメイドで生み出していた。
流麗なボディに、スーパーチャージャーで過給したエンジンを積む2シーター・レーサー。ロンドンのキャブレター・メーカー、RAGパテンツ社でディレクターを務めていたマックス・モリスへも、強い感銘を与えた。
1930年の終わり、アイルランドの富豪だったRAガーストンなどの後押しで、モリスは自社のプロモーション用に2台のマセラティをオーダーした。それが、このティーポ26スポーツだ。
150mm長いシャシーに4シーター
オーバー1500ccクラスの4シーターという規定に合わせ、フレームは厚みを増して150mm延長。デチューンした2.5L直列8気筒ツインカム・エンジンが搭載された。
マセラティの工場を出た時は、ボンネットとスカットルが付いてはいたものの、ボディは未架装。ティーポ26らしい、傾斜したラジエターが良く目立っただろう。通常より高い位置に取り付けられ、容量も増やされていた。
計画されたデビュー戦は1931年5月の、ダブル・トウェルブ。ブルックランズ・サーキットを舞台とした、2日間構成の24時間耐久レースだ。
ボディは、どこが手掛けたのかは不明だが、マセラティのファクトリーチーム・レーサーと大きく異なっていることは事実。木製のフレームに、レキシンと呼ばれる合皮が張られていた。4シーターで、長いフードが与えられた。
ロングシャシーのティーポ26には、ダイナモとスターター、ライト類を装備。もちろん会社のPRとして、モリスはウェーバー・キャブレターのかわりに自社のRAGキャブレターを載せた。
マシンは、LCローレンス&Co社によって準備が進められた。エンジニアのRAディッキー・オーツの監修で、綿密なテストが繰り返されたという。
1931年のダブル・トウェルブに間に合ったのは1台だけ。シャシー番号2518で、今回ご紹介するマシンだ。ドライバーはジョージ・エイストンとジュリオ・ランポーニの2名。メカニックでもあり、腕利きのレーサーでもあった。