【華やかに着飾ったカブリオレ】VWカルマン・ギアとルノー・フロリード 後編
公開 : 2020.07.11 16:50 更新 : 2022.08.08 07:39
大きく異なるステアリングフィール
2台で大きく異なるのが、ステアリング。カルマン・ギアのボール・ナット式は、とても軽快。クイックなレシオは、モダンな設定だ。
しかし、直進時も不安になるほど感触が薄い。手のひらに手応えが伝わるのは、トーションバーで支えるフロントタイヤに強い荷重がかかったときくらい。
一方、ダブルウイッシュボーン式のサスペンションに、洗練されたラック・ピニオンのステアリングラックを採用するフロリード。スポーツカーに乗っていると、ドライバーへ訴えかけるようだ。
低速域でもステアリングホイールの操舵感は重く、狭い135幅のタイヤの状態が良くつかめる。当時のスポーツカー基準でも、コーナーを攻めたくなるような安定感や鋭さには欠けるが。
フロリードの強みは、上質な乗り心地と良く効く小回り。限りある馬力で、スイングアクスルのリアタイヤのキャンバー角が変化するほど、ハイペースで走る気にはならない。
ルノー・フロリードの生産は1968年まで続いた。11万7000第が製造され、北米ではカラベル、欧州ではフロリードという2つのエンブレムが付けられた。
フォルクスワーゲン・カルマン・ギアは、1970年代半ばまで生産が続く。1961年には、吊り目眉毛の付いた、タイプ3をベースにしたT34も追加された。
オリジナルのカルマン・ギアは、1974年に生産が終了。ゴルフをベースにするシロッコへ置き換わる。総計で36万4000台のカルマン・ギア・クーペと、8万1000台のカルマン・ギア・カブリオレが製造された。
美しいボディが多くの人を惹きつける
カルマン社はその後も、フォルクスワーゲンだけでなくBMWやフォード、ポルシェ、メルセデス・ベンツ、ルノーなどのボディ製造や組み立てを請け負うが、2009年に倒産。フォルクスワーゲンに吸収された。
ギア社は、デザイナーのルイジ・セグレが亡くなると、アレッサンドロ・デ・トマソが買収。1970年代初めにフォードへ売られるまで、ミドシップ・スーパーカーのパンテーラを製造した。
4倍近い生産台数の差が、現在のフォルクスワーゲン・カルマン・ギアの知名度の高さに反映している。もちろん、ビートルがベースということも影響しているだろう。
当時のフォルクスワーゲンは、格好良く、魅力的なブランドだと受け止められていた。多くの人の間で、ルノーとは異なるイメージを築いていた。
現在、状態の良いルノー・フロリードは、1万5000ポンド(198万円)から2万ポンド(264万円)程度で手に入る。だが状態の良いカルマン・ギアを買うには、さらに5割増しの資金が必要だ。
2台よりエキゾチックさは薄いが、英国では状態の良い、はるかに速いMGBが安く手に入る。華やかに仕立て直された魅力は、速さで劣っても、人を惹き付けるということを物語る事実だ。