【ファリーナ・ボディのクーペ】1台限りのロールス・ロイス・シルバー・ドーン 後編

公開 : 2020.07.12 16:50  更新 : 2020.12.08 11:04

ピニンファリーナがスタイリングした、珍しいロールス・ロイスが存在します。しかし価値が認められにくく、長期間にわたって所在不明でした。イタリアの富豪がオーダーした、1台限りのシルバー・ドーンをご紹介しましょう。

現行のレイス・クーペへも影響を与えた

text:Martin Buckley(マーティン・バックリー)
photo:James Mann(ジェームズ・マン)
translation:Kenji Nakajima(中嶋健治)

 
筆者が最初にピニンファリーナ・ボディのシルバー・ドーンを目にしたのは、2019年。英国バーリーハウスで開かれた、ロールス・ロイス・エンスージァスト・クラブの会場だった。

巨大なボディのロールス・ロイス・ゴーストファントムの中で、少し紛れるように停まっていた。それでも、間違いなく魅了する雰囲気を放っていた。コンパクトだが、威厳を漂わせていた。

ロールス・ロイス・シルバー・ドーン・ピニンファリーナ(1951年)
ロールス・ロイス・シルバー・ドーン・ピニンファリーナ(1951年)

シルバー・ドーンは、コンチネンタルほどの強い優雅さはたたえていないが、強い個性がある。サルーンボディのドーンは、姿勢正しくフォーマルな雰囲気だが、クーペは低く官能的。どこか都会的でもある。

長く姿をくらませていたピニンファリーナ・ボディのシルバー・ドーン。ロールス・ロイスは、現行のレイス・クーペのデザインへ影響を与えたことを認めている。

ボディ後半のなだらかに傾斜するルーフラインは、同じピニンファリーナが手掛けた、ランチア・アウレリアB20にも似た処理。バンパーは別注品が付いているが、標準のものへ戻すこともできるそうだ。

スピリット・オブ・エクスタシーがひざまずくフロントグリルは、手が加えられていないように見える。ボンネットの開き方も、当時のロールス・ロイスと共通。ボディを覆う優雅なラインと装飾は、当時のファリーナによって特別に仕立てられた。

静かで艷やかなストレート6

左右のドアウインドウは、フレームレス。アウレリアと同じ、窓の巻き上げ構造が組まれているようだ。イタリア人が好んだ、ワイヤーとプーリーで開閉できる。

プレーンなフロントシートには、折りたたみ式のアームレストが備わる。ベンチシートを機能的に分けることができる。

ロールス・ロイス・シルバー・ドーン・ピニンファリーナ(1951年)
ロールス・ロイス・シルバー・ドーン・ピニンファリーナ(1951年)

車内に身を沈めると、イタリア製ボディには、ドライバー周りのレイアウトで再考が必要だったことがわかる。頭上や膝周りの空間は、リアシートの方が広い。対象的に、パーセルシェルフは巨大。

ウッドパネルの美しいダッシュボードは、標準のドーンやレイスと同じものと思われる。センターハブにサスペンションとスロットルの調整レバーが付いた、ステアリングホイールも。

前方の視界は良好だが、後方視界は太いピラーに遮られ、死角が大きい。フェンダーミラーが欲しいところだが、せっかくのボディラインが損なわれてしまう。

イグニッションスイッチをオンにすれば、キーがなくてもエンジンは始動する。スターターモーターが苦しむことなく、ストレート6は静かにハミングを始める。エナメルのように艷やかだ。

変速はスムーズだが、機械を操作している感触も伴う。ステアリングやアクセルの操作感と共通する。現代の道路の流れにも調和できる、力強い走りを引き出せる。

発進後、秒単位で2速へシフトアップでき、トップギアでも問題なく速度を乗せていく。半クラッチなしでも、8km/h以上の速度ならスムーズに加速する柔軟性もある。

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