ポルシェ・マカン4×4
公開 : 2013.10.09 21:00 更新 : 2017.05.29 19:05
ポルシェ・カイエンのセンセーショナルな発表イベントを覚えているだろうか。ポルシェがこのSUVをランナップに加えることを発表したのは、丁度、2001年のミレニアムの直後だった。ポルシェはカイエンをSUVとは呼んでいないが、現実的にはSUVと言えるこのモデルの追加は、ポルシェ・ファンの間で物議を醸し出すことになった。
それから10年。カイエンは当初の楽観的とも言えるセールス予測をはるかに上回る販売をおさめ、名声を確立した。昨年だけでも77,882台ものセールスをマークしたのだ。そして、それは、同時に、918スパイダーのようなモデルを造り出すための財政的な基盤を確保したとも言える。
そして、ポルシェ2番目のSUVとして来年デビューする予定のモデルが、このマカンだ。
来月のロサンゼルス・モーターショーで一般公開されるスケジュールが組まれているこのモデルは、カイエンよりもひとまわり小さなSUVである。価格は英国では£40,000(625万円)からとされている。
このマカンのパブリック・デビューを前に、カルフォルニアでのテストのプロジェクト・リーダーであるハンス・ユルゲン・ヴェーラーから、公道での最終テストに誘われたのだった。
サイズが重要
遠くから眺めると、マカンのプロトタイプとサポートカーであるカイエンとの区別は付きづらい。エンジニアリング・チームが北米にもってきた2台のマカンはカモフラージュはほとんどないため、この2つのモデルが共通のデザイン言語を持つことは明らかである。
特徴的なのはフロント・セクションだ。カイエンのように、左右のフロント・フェンダーが独立した作りではなく、ミニ・ハッチバックのように左右のフェンダーとボンネット前のセクションが連続したパーツとして造られていることだ。これは、ヴェーラーによればエンジン・ベイの中のエアフローを改善するための処理ということだ。
カイエンのスケール・ダウン・バージョンのように思えるマカンだが、そのベースは異なる。カイエンはフォルクスワーゲン・トゥアレグがベースなのに対し、マカンはアウディQ5とベースを共有している。
来年5月に予定されている英国でのリリース時には、、ポルシェは3つのエンジンをラインナップする予定だ。そして、トランスミッションは6速マニュアルおよび7速デュアル・クラッチが組み合わせられる。カイエンに使用される8速オートマティックではなく、7速デュアル・クラッチにしたのは、ヴェーラーによればよりスポーティな感覚を提供するためだとしている。
4WDシステムは、トルセン・トルク・センシング・システムが用意される。また、惰性走行でもエンジンをカットオフするスタート・ストップ・システムも装備される。
そのホイールベースは2807mmと生産5年目となるアウディQ5と同一だが、マカンの方が70mm長く、44mm広く、29mm低い。サスペンションは、4輪マルチリンク。可変ダンバーとコンベンショナルなスティール・コイル・スプリング、そしてアンチロール・バーが組み合わせられる。但し、その詳細は11月の一般公開まで完全に明らかにはされない。
ホイールは17インチが標準だが、オプションでは21インチまで用意される。ステアリングはポルシェがマッピングを専用に開発した電子機械式だ。
マカン・ターボの助手席に滑りこむ。このターボ・モデルに搭載されているエンジンは、従来のノーマル・アスピレーションの3.6ℓV6ダイレクト・インジェクションにツインターボを装備したもの。強制誘導インダクションや複雑なクーリング・システムを採用した結果、そのアウトプットは100bhp大きい395bhpにまでアップしている。これはカイエンに搭載されるノーマル・アスピレーションの4.8ℓV8に劣らない数値だ。トルクも15.2kg-m大きい56.1kg-m。これは、最もパワフルなアウディQ5であるSQ5の3.0ℓV6スーパーチャージャーの354bhp、48.0kg-mよりも大きな値だ。
インテリアはスイッチやコントロールはカイエンと非常に似ている。また、そのクオリティはポルシェの名に相応しいものだ。ドライビング・ポジションは、カイエンよりもスポーティな味付けがされているが、マルチ・ファンクションのステアリング・ホイールは、スポーツカーのように垂直ではなく、非常にバランスの良いセッティングといえる。
キャビンは広い。大人4人が座っても充分なニー・スペースとヘッド・クリアランスが確保されており、5人乗車も可能だ。
われわれはロサンゼルスのパーキングからスタートし、オフロード・ドライビングも楽しめる峡谷へとそのノーズを向けた。
ポルシェはこの新しいモデルの重さについて一切の言及をしていない。が、ヴェーラーによればアルミニウムの使用を含め軽量化がほどこされた結果、ターボ・モデルでも1700kg以下に収まっているという。
そのため、低速ギアではパフォーマンスの高い加速を見せる。その動力性能の数値は明らかにされていないが、0-100km/h加速5.0秒、最高速は258km/hという値が予想される。
印象的なパフォーマンスとダイナミックなハンドリング
渓谷に向かうまでのハイウェイでは、ハイギアードなターボのギアリングの恩恵を受ける。オプションの7速PDKをオートマティック・モードにしておけば2000rpm以上になることはほとんどない。スロットルを踏んだ時にエグゾーストから微かな唸りが聞こえるだけで、メカニカル面のリファインは素晴らしい。
ポルシェはこのターボの他に、英国でのセールスではアウディから供給された2台の3.0ℓV6ユニットを用意する。335bhp、46.9kg-mのガソリンと、254bhp、59.2kg-mのコモンレール・ターボ・ディーゼルだ。また、1995年の968以降生産のなかった4気筒エンジンも搭載する計画がある。これは親会社でもあるフォルクスワーゲンから供給されるもので、225bhp、35.7kg-mの2.0ℓターボと、177bhp、38.7kg-mのターボ・ディーゼルがその候補だ。
さて、ヴェーラーが「このクラスで最もダイナミックはハンドリング」と言うのを確かめることにする。ロサンゼルスの大通りを後にした直後から、その機敏なステアリング・レスポンスを感じていた。コーナリングではシャープなターン・インと、少ないボディ・ロールが特徴的で、限界付近でもアンダーステアはほとんどない。中速で抜けるコーナーでも高いグリップ・レベルを見せ、4WDシステムが充分なトラクションを与えてくれる。
もちろん、決定的な評価をしたいのであれば、自分自身でステアリングを握ってみることが必要だろう。しかし、マカンのダイナミックな能力は、BMW X3に対抗しうる以上のものを持っていることは確かだ。
そして、同時に驚くべきことは265/45サイズの21インチ・ホイールを履いているにもかかわらず、乗り心地が許容できる範囲に収まっているということだ。スプリングは確かに固いが、広範囲にわたるイレギュラーな凹凸を見事に吸収してくれるのだ。
カイエンのようにマカンもロード・ドライビングを中心にセッティングされたモデルだ。しかし、オフロードにおけるSUVとしてのパフォーマンスも充分に備えている。マカンはQ5よりも大きなグラウンド・クリアランスと、デパーチャーおよびランプ・アングルを持つ。スポーツ・ドライビングがオンロード以外でも楽しめることは保証する。
ギャンブルは成功か?
マカンで成し遂げたいポルシェの野心、それはより多くのユーザーにアピールするSUVであるということだ。それは、学校の送り迎えをする母親から、熱心なエンスージァストまでを満足させるSUVということでもある。そして、その狙いは見事に達成されていると言えるだろう。少なくとも1日、マカンに乗って感じた結果はそうである。
大胆なエンジン、素晴らしく効率的なドライブラインとシャシーの組み合わせは、ポルシェ・マジックということができよう。確かに、その外観には好き嫌いがあるかもしれないが、インテリアは高級で広く、誘惑的だ。そして、アウディQ5との共通点もほどんどない。
果たしてマカンは、このクラスのキングになれるのだろうか? 少なくとも現時点ではそうなることが容易に予想できるのだ。