【NAフラット6が復活】ポルシェ718ボクスター GTSへ試乗 毎日のスペシャル
公開 : 2020.07.21 10:20
総合点で考えると最も手頃なモデル候補
718ボクスター GTS 4.0の排気量は3995ccもあるが、クルージング時の燃費は14.2km/L程度にまで伸びる。しかも、その時の車内はフォルクスワーゲン・ゴルフと同じくらい静かで、乗り心地も優しい。
筆者なら、ボクスターGTSで英国縦断も難なくこなせるだろう。成熟度合いには驚かされる。911並みの上質さがあり、より軽快でしなやか。駐車もしやすい。
あまりの完成度だから、長所をあげるより、短所をあげる方が簡単。英国価格は6万6340ポンド(888万円)で、安いクルマではない。ただし、メルセデスAMG A45 Sもほとんど同じ値段が付いている。
実用性や所有欲、純粋な性能などの総合点で考えると、718ボクスター GTS 4.0は最も手頃なモデル候補となるだろう。ちなみにポルシェ911カレラSカブリオレは、10万4000ポンド(1393万円)もする。
トランスミッションのレシオは、まだ少しロング過ぎる。変速のフィーリングも、印象に残るほど濃くはない。
それでも、たくましいエンジンを活かした走りに慣れれば、2速で引っ張って、素晴らしい高回転域のサウンドを堪能できる。欲求不満はほとんど残らない。
GTSの4.0Lエンジンは、991型911 GT3に搭載される、モータースポーツ直系の切れの良い咆哮は放たない。しかし価格で並び奥行きの深い、BMW M2 CSが搭載する直列6気筒にも負けない、明確なキャラクターを備えている。
ブレーキは少しサーボが強すぎるものの、わずかに、といったレベル。気にするほどではない。
何より、そのほかのボクスターと同様に、1番の長所はハンドリング。新しいNAフラット6が積まれても、この事実を翻すには至らない。
思い描いた通りのラインをトレースする
GTS 4.0は標準のボクスターより20mm車高が低い。試乗車は20インチのホイールを履いていたが、英国郊外の道を、感心するほどのしなやかさを保って駆け抜けた。
ダンパーには2つの設定が用意されている。ハードな設定が必要となるのは、姿勢制御が難しくなるような限られた区間のみ。それ以外の道は、乗ったままの、標準状態でも問題ない。筆者の好みでは、アクセルレスポンスが鋭くなるスポーツ・モードを選ぶけれど。
718ボクスター GTS 4.0は、コーナーの連続する区間を、落ち着きのある精密さで抜けていく。ボディロールはステアリング操作と調和するように完全に制御され、ドライバーが思い描いた通りのラインをトレースしていく。
想像の中のデジャブのように。スペシャルな体験だ。
シャシーはバランスに優れ、ドライバーへ寛容。ターボで加給されていた時代のGTSと変わらず、当たりはソフト。だが路面の処理はさらに磨かれた印象もある。
サスペンションの設計やハードウエア自体には、大きな変更はない。すでに優れた操縦性を備えていたが、違いは主にエンジンのターボラグの有無が影響しているのだろう。新しいフラット6の精度が、総合的に引き立てている。
タイヤは、同じエンジンのボクスター・スパイダーが履く、ミシュラン製のセミスリックではない。一般道に軸が置かれ、グリップの限界を越えても挙動は漸進的。コントロールしやすい。