【キャデラックがベースの奇抜なレーサー】 ル・モンスト・ロードスター 後編
公開 : 2020.08.01 16:50 更新 : 2020.12.08 08:32
5か月で仕上げたロードスターのレプリカ
デレクは、とりつかれたように仕事を進た。2018年のル・マン・クラシックへは、写真を付けずに応募した。まだ参戦するクルマは完成していなかった。
「レブス・インスティチュートの人は素晴らしく親切でした。彼らは当時のチームが記した、ドライバーズ・ノートのコピーを送ってくれました。コーナーごとにギアと回転数が記してあるものです」
「オリジナルを計測し、写真を撮影しました。それを、シャシーの上へ置いたシートに投影し、制作を進めました。朝から晩まで作業をしましたが、最初の応募締切の1月を、うっかり逃したんです」
「2月の2度目の申込みには、なんとしてでも間に合わせる必要がありました」 デレクは5か月間で、ル・モンスト・ロードスターのレプリカを作り上げた。
妻のパットは、スチュワート・ワーナー製のメーター類や、サン製の6000rpmまでのレブカウンターなど、珍しい部品を探し出した。デレクはエド・コールが設計した、ユニークな5キャブレターが載るインテークマニホールドを成形した。
電気式の燃料ポンプと冷却ファンを除いて、妥協はほとんどない。入手できるタイヤの都合で、ホイールは16インチではなく15インチだ。ヘッドレストは、標準より5cmほど高い。万が一、クルマが横転した際にドライバーを守るために。
シリーズ61クーペの1820kgと比べて、ル・モンスト・ロードスターは1678kgと軽量。レースカーとしては軽い方ではないが、運転ははるかに簡単だとデレクが話す。
間違いなく人生を楽しんでいる
「カートのように走れます。2ドアのシリーズ61クーペは、かなり手前からコーナーに構えている必要があります。でも、リミテッド・スリップデフはなく車重の割に160psですから、タイトなコーナーでは速くありません」
「コラムシフトの変速も、かなりゆっくり。縁石に乗り上げないように走らないと、振動でシフトが抜けてしまいます。でも慣れれば、信頼して走れます」
残念にも、2018年のル・マン・クラシックは2016年のように完走はできなかった。スタートはできたものの、リタイヤで終わった。
マスターのキル・スイッチが故障。群衆の1人からスイス・アーミーナイフを借りて対応し、なんとかスタートグリットには間に合った。「ル・モンストのエンジンが始動したとき、囲んだファンから歓声が上がりました」
デレクが思い返す。「スタンド21のレーシング・ウェアを着た男性が、シートに座りたいと話しかけてきました。彼は1950年のオリジナル・マシンにも座った経験を持っていました」
ル・モンスト・ロードスターは1時間ほどサルテサーキットを快調に周回したが、リアブレーキ側のマスターシリンダーからフルード漏れが発生。デレクは夜のセッションまで持ちこたえさせたが、早朝にフロントのブレーキも不調を起こし、クルマを止めた。
「間違いなく、わたしたちは人生を楽しんでいます」 デレク・ドリンクウォーターと妻のパットは、フランスで未完の仕事を残した。目標は、もちろん来年のル・マン・クラシックでの完走。きっとまた、ル・モンストでわれわれの注目を集めることだろう。