【女神と呼ばれた巨人】デイムラーDE36 フーパー グリーン・ゴッデス 後編
公開 : 2020.08.02 16:50 更新 : 2020.12.08 08:32
グリーン・ゴッデスと呼ばれたデイムラーDE36。新車時でも7台のみ、現存するのは5台という、貴重なクラシック・ラグジュアリーです。英国のコーチビルダーが有した高い技術力を伺い知れる1台を、ご紹介しましょう。
もくじ
ーエジプトのファールーク王の影
ー現存するグリーン・ゴッデスは5台
ー美しい巨大なボディに機能的な直列8気筒
ー穏やかな走りと豪奢な乗り心地
ー英国コーチビルダーの技術力が生んだ極み
ーデイムラーDE36 フーパー・ドロップヘッド・クーペ「グリーン・ゴッデス」(1948年−1953年)のスペック
エジプトのファールーク王の影
デイムラーDE36 グリーン・ゴッデスを販売するヴィンテージ&プレステージ社の代表、クリス・キトゥーが説明する。「フーパー社の手書きのノートには、7台のうちの2台目で、ファールーク王のために作ったと残されています。しかし、納車されていません」
「イングランドの、Fナイルドという人物へ引き渡されています。同時期にアフガニスタンの王も、リムジンを注文しています。リムジンのシャシー番号は、グリーン・ゴッデスに続く番号でした」
「Fナイルドという人物を、追うことはできませんでした。推測では、王の仮名ではなかったのか、と考えています。Fはファールークの頭文字で、ナイルドはナイル・デルタの略。つまり、カイロです」
「経済的に不安定な国からの高額商品の注文手法として、当時は一般的なものでした。しかし、あくまでも推測。正確にはわかりません」 と話すクリス・キトゥー。
「軍事的な便宜の引き換えに用意された、政府からの贈り物だったのではないか、という推測もできます。ファールーク王は、以前に同様なことを受けています」
「ドイツのヒトラーは、港と空港を利用させてもらう見返りに、ファールーク王へメルセデス・ベンツ540Kコンバーチブルを贈っています。ファールークのクルマは、いつもボディカラーは赤でした」
「彼はクルマが大変好きで、定期的にショーイベントにも参加していました。55台のクルマを所有していたといいます」 クリス・キトゥーの推測は興味深い。
現存するグリーン・ゴッデスは5台
第二次大戦が終わると、ファールーク王は英国製品を積極的に購入した。アールズコートでグリーン・ゴッデスを目にした1948年、彼はパレスチナとイスラエルとの紛争に巻き込まれてしまう。さらにアフガニスタンは同時期に深刻な経済危機へ陥った。
ファールーク王は、1952年にエジプトからの亡命を余儀なくされる。彼が注文をキャンセルし、頭金を放棄する決断をしても、理にかなう。その後の英国政府からのギフトなら、断る必要はない。
様々な推測はできる。しかし過去は何であれ、現存するグリーン・ゴッデス、デイムラーDE36フーパー・ドロップヘッド・クーペの価値は変わらない。
過去20年の間に、現存する5台で取引されているのは2台。そのうちの1台、シャシー番号52802は、2010年に50万2000ドル(5420万円)で売買されている。一方、2015年に70万ドル(7560万円)で売りに出されたクルマは、それ以降姿を見せていない。
ジャガー・デイムラー・ヘリテージ・トラストが所有していたDE36もあったが、今はアメリカへ渡った。シャシー番号は51753で、ニューヨークの輸入業者を経由し、オペラ歌手のジェームス・メルトンがオーナーになっている。
作家のクライブ・カッスラーもコレクションの1台として、フェアリング・ライトの付いたグリーン・ゴッデスを所有していた。だが、シャシー番号は不明だ。