【女神と呼ばれた巨人】デイムラーDE36 フーパー グリーン・ゴッデス 後編
公開 : 2020.08.02 16:50 更新 : 2020.12.08 08:32
美しい巨大なボディに機能的な直列8気筒
多くの足跡を辿れるほど希少な緑の女神は、疑う余地なく美しい。フーパーのデザイン番号は8183。流れるようなボディは優雅で、余計なラインは一切ない。フランスのグランドツアラー、ドライエやタルボ・ラーゴの流麗なボディと、美しさで競い合えるほど。
滑らかなボディサイドを遮るのは、クロームの給油キャップと、ウインカーだけ。後部座席の側にあるレバーを操作すると、リアタイヤのスパッツがスプリングの力で持ち上がるように開く。
大きくカーブを描くテールエンドの面積と比較して、テールライトは不思議なほどに小さい。フェンダーと一体となったフル・ボディに与えられた、大胆で聡明なプロポーション。リアよりもフロントの方がワイドに見える。
ペブルビーチ・コンクール・デレガンスの芝生の上にも、ピッタリ似合いそうだ。実際、シャシー番号52802を付けた別の女神は、1994年のコンクールでクラス優勝を挙げている。
手入れの行き届いた多くのクラシック・モデルと同様に、シャシー番号51724のグリーン・ゴッデスも、運転するより、鑑賞を楽しむクルマに近い。
ドアは驚くほど深く開く。ボンネットとトランクリッドには、ハンドル状のレバーが付き、木製のフレームも目にできる。両手が必要なほど、重い。
背が高く長いエンジンは、トロール船やバスに積まれているような出で立ち。対象的にキャブレターが小さく見える。機能的で洗練された動力源だ。直列8気筒だが、ブガッティとは違うアイデアでできている。
穏やかな走りと豪奢な乗り心地
大きなステアリングホイールが伸びるフロントシートより、リアシートに座る方が簡単。目の前には巨大なボンネットが広がる。当時のパンフレットで描かれたイラストのように、ボディに収まる小柄な人物になったような気がする。
ダッシュボードは、白物家電のようにシンプルなクリーム色。後期のクルマにはウッドパネルのものもあったが、筆者はこちらの方が好みだ。
その下に、ベークライト製のスイッチが並ぶ。ライトやデミスター、フード、スターターなどのほかに、ガソリン圧やイグニションという珍しい機能も割り振られている。ドアのパワーウィンドウの操作も、個別に可能だ。
女神は、あまりアスファルトの道がお好きではない。リアミラーに映る道幅には、余裕がない。
ボンネットの下からこもったエンジン音が響き、加速というよりも、穏やかに歩み始める。ステアリングホイール上にプリセレクター・スイッチがあり、指先で変速ができる。
離れたところから、ギアのノイズが聞こえてくる。クラッチペダルを蹴ると、予めセレクターで選んだギアに変速される。クラッチペダルの操作なしで、低速域から高いギアのまま走ることも嫌がらない。
ステアリングホイールの操作やブレーキングは、他のドライバーにお願いしたい雑用かもしれない。アンダーステアは強いが、しっとり穏やか。もちろんカーブを縫うように走る、ということはない。
ステアリングの操舵は、見かけほど力が必要だったり、忙しかったりはしない。操縦する喜びは薄くても、ふくよかな女神の体重は、ラグジュアリーな乗り心地を与えてくれる。