【詳細データテスト】 ベントレー・フライングスパー F40と同等の加速 期待以上のハンドリング 快適性には注文あり

公開 : 2020.07.25 11:50

走り ★★★★★★★★★☆

W12ツインターボの回りはじめ、アイドリングをわずかに超えるくらいでのエンジン音は、きわめてかすかに聞こえるのみ。常用域では作動音がなめらかで耳に麗しいものとなり、負荷が高まると唸り声を上げるが、絶叫するようなものになることはけっしてない。いうなれば貴族的で、個性もある。いわんや魅力をや、だ。

じつのところ、スポーツモデルのエンジンとして最高とはいえない。レヴリミットは6000rpmそこそこで、レスポンス抜群というわけでもない。スロットル入力は唐突なものより、慎重で急がないほうがはるかに適しているユニットだ。

このクルマのW12ツインターボは、研ぎ澄まされたスポーツユニットではないが、高級サルーンには最適のキャラクター。DCTには、先行するコンチネンタルGTと同様に、作動音が打ち消し切れていないところがみられる。
このクルマのW12ツインターボは、研ぎ澄まされたスポーツユニットではないが、高級サルーンには最適のキャラクター。DCTには、先行するコンチネンタルGTと同様に、作動音が打ち消し切れていないところがみられる。    OLGUN KORDAL

しかし、少なくとも高級サルーンに搭載するなら、要件をみごとに満たしてくれる。ついに退役することとなった伝統の6.75L V8がまさしくそうであったように、とにかく中回転域のトルクがすべてという性格の持ち主だ。そこでの力強さには驚きを禁じえない。

渋滞の中をノロノロ進んでいても、スロットルペダルを5cmばかり踏み込めば、すぐさまターボが目を覚まし、ふわりと漂うように前へと流れ出す。この強力でいてこの上なくしなやかな動きは、オリエント急行のように客車を連結しても変わらないと思えるほどだ。

さらに強く足に力を込めると、驚異的なポテンシャルを開放する。ただし、どこまでも無理なく、というわけではない。このW12が本領を発揮するのは、極太のトルクを発生する回転域でのことだ。

一般的な巡航速度からパワーバンドへ入れるには数段のシフトダウンが必要で、ピークパワーの発生範囲はやや狭く、あっという間に過ぎるように感じられる。それゆえ、このクルマのドライビングを堪能したいなら、トランスミッションはマニュアルモードにして、エンジンがすぐさま力を発揮できるよう準備しておくのが最善だ。

走りを楽しみたいドライバーならそうするはずだ。なんといってもフライングスパーは、最新のスーパーサルーンがそうであるように、十分な広さのあるオンロードであれば、2点間移動でめっぽう速いクルマなのだから。

そして、このエンジンの発する駆動力を、ドライブラインはゼロスタートから余すことなく路面へ伝える。この、即興の重役室にもなるほど大きく贅沢なサルーンが、スタンディングスタートから3.9秒で97km/hに到達するのを目の当たりにするほど劇的な体験はそうそうない。重量が2.5tにも達する4ドアが、フェラーリの至宝・F40と変わらぬペースで加速するのだから。

ブレーキのペダルフィールは、うれしくなるくらいプログレッシブ。かなりの速度から踏むと、もう少し制動力が強くてもいいとも思わされる。だが、それは超スムースでトラベルを長く取ったペダルのチューニングの結果だ。

デュアルクラッチ式ギアボックスのマナーは、おおむね良好だ。とはいえ、ギアを抜き差しする際の金属音が、ときどきだが耳に届く瞬間がある傾向は消し切れていない。

それがみられるのはだいたい、マニューバリング中や、コーナリング中にスロットルペダルを踏み足したとき。2年前にコンチネンタルGTでこのトランスミッションが初採用されたときから、この点は改善されていない。

誰もが気にするというようなものではないが、世界最高峰のクルマであるべき高級車に課される、もっとも厳しい水準に照らして評価する以上、これを書き残さないわけにはいかないだろう。

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