【新車で買える1937年式!?】アルヴィスに、日本で試乗してみた 新・旧4.3リッター・バンデン・プラ・ツアラー
公開 : 2020.08.02 18:50 更新 : 2021.10.09 23:31
オリジナルよりスパイスの効いたコンティニュエーション
80年以上の時を隔てて組まれた同じ4.3Lの直6を、4速が直結となるクロスレシオかつオーバードライブ付きのトランスミッションで操るのは、まったく質の異なる刺激だった。
吹け上がりが軽くてアクセルに対するレスポンスも一段鋭い。その分、シフト操作も忙しくなるが、峠道など公道ではコンティニュエーション・シリーズの方が勾配やコーナーのRに対してヴァーサティル、つまり乗り易いだろう。
ラック&ピニオン式に改められたステアリングのフィールもより鮮明で、細身のタイヤがたわんでからノーズが素直にインに入っていく感覚が、明確に腰に伝わってくる。4900×1700×1360mmに、3135mmという超ロングホイールベースのジオメトリーも、現代のクルマに乗り慣れた身に大きな違和感はない。
そもそもこのサイズ感で1620kgという車重は、戦前なら重量級パフォーマンスカーでも、今やご馳走といえる軽さなのだ。
制動タッチについても、こちらはサーボアシスト付きディスクブレーキだが、ある程度ブレーキペダルをストロークさせないと効かないのは旧モデルと同じで、制動力自体に差があるとは感じられなかった。惜しむらくはABCペダルの配置で、ブレーキに対しアクセルが奧にあり過ぎてヒール&トゥができないこと、あとカマボコ型のクラッチペダルが雨に濡れた靴底には滑りやすく、土踏まずで踏みとどまったことが何度かあった。
とはいえ、それらは調整の範囲だろうし、新車として1937年式のクルマを操れる喜びは何物にも代え難い。
非・大量生産品の1台が、今の大量生産車と決定的に違うこと
今回、オリジナルとコンティニュエーション・シリーズ双方の4.3リッター・バンデン・プラ・ツアラーに接してつくづく感じたのは、アルヴィスというクルマが、戦後の大量生産カルチャー、つまりコストカットによる効率化と現地生産主義で売られてきたクルマとは、峻別されるべき工業製品である事実だ。
だから英国渡しで約5300万円という価格は、決して高過ぎるものでもない。
元々、アルヴィスはローリングシャシーのみのメーカーで、ボディはコーチビルダーで別に誂えて架装するものだった。1940年で時を止めた工場から蘇った2020年型のコンティニュエーション・シリーズは、いわば沈没船から発見されたシャンパーニュとかロシアン・カーフに似るが、その価値は希少品としてのそれだけではない。
2020年型はクラシックカー・イベントなどの出場資格は得られないかもしれないし、投機的な価値も生みにくいだろうが、クルマというものが使っているうちに償却して無価値になる耐久消費財のフリをした「消えモノ」ではなく、買ったら一生直しながら使うモノだった時代の、エッセンシャルな造りの良さを宿している。
ちなみに試乗を終えて迎えた週末、英国でエリザベス女王の孫、チャールズ皇太子の姪にあたるベアトリス王女が、女王の1960年代のドレスをウェディングドレスに直して、結婚式で着用したという報があった。
何でも女王が映画「アラビアのロレンス」の試写会で着用した代物だったとか。誂えで作ったものは、そう、元より使い捨てるものではないのだ。
それに、キャブレター調整その他の軽作業などメカニックの手を経ずとも、戦前の英国メイドの重厚さと精密さを気軽に味わえる。要はお独りさまで遊べる人には、上手く使えば一生の玩具になる。
コンティニュエーション・シリーズは今後、別の3L直6を加え、他に6種類の車種が展開される予定だ。歴代のオールド・アルヴィスをも並べたショールームが品川区港南にオープンしているので、足を運んでみて欲しい。