【ミッドセンチュリーの美】コンチネンタルでパーム・スプリングスを流す 前編
公開 : 2020.08.22 08:50 更新 : 2020.12.08 08:35
1950年代の過剰なクルマづくりを象徴するモデルであり、観音開きの傑作とも評される、リンカーン・コンチネンタル。美しいモダニズム・デザインが、パーム・スプリングスに残るミッドセンチュリーの町並みに良く映えます。
宇宙開発競争の時代を匂わせるボディ
ロサンゼルスの街並みに広がる、片側4車線の高速道路。似たようなファストフード店が並ぶ間を、沢山のクルマが抜けていく。
カリフォルニア州の南、パーム・スプリングスには新鮮な空気が残っていた。がらんとした通りにワイヤーでぶら下がる信号機が、陽光を浴びながら揺れている。青空を背にヤシの木が伸びる。
目的地は、ミッドセンチュリーの街並みを巡るツアーの出発点。無愛想なシャッターの付いた、どこにでもある工業的な建物だった。クリス・メンラッドが所有する一角に入る。
暗闇に目が順応していくと、控えめながら美しい、アメリカン・クラシックのコレクションが徐々に見えてくる。デザインに造詣の深いメンラッド。プリマスやキャディラックの中に、ぽつんとローバーP6が並んでいた。
今回は、この中から1962年製のリンカーン・コンチネンタルを選んだ。保守的でありながらも、画期的だと感じさせるデザインはそうそうない。
宇宙開発競争の時代を匂わせる、切り立ったテールフィンとアフターバーナーのようなテールライト。コンチネンタルのボディは大きい。ドライブイン・シアターでは、ローラースケートを履いた女の子が、フライドポテトを運んでいた頃だ。
クリーンな線とフラットな面。モダニズムを探求したデザインは、過剰さが抑えられている。ミニマリズムを先取りするかのように、全長5.5mもあるボディはエレガント。
長大で上品なピラーレス・ハードトップ
走り去る姿は、記憶に残るほどの存在感がある。2階建での大型旅客機、エアバスA380が離陸するように、優雅でありなあら圧倒的な雰囲気を漂わせている。
このコンチネンタルをデザインしたのは、エルウッド・エンゲル。キャディラックのライバルとして生み出された。面白いことに、当初はリンカーンではなく、1961年式のフォード・サンダーバードのデザインコンセプトとして描かれたものだった。
ベースとするのはユニボディ・プラットフォーム。3124mmもあるホイールベースは、1964年にはさらに76mm伸ばされた。
当時、コンチネンタルはハードトップとコンバーチブルが選べた。どちらも4ドアのボディで。リアドアは、1951年のELシリーズ以来となる、スーイサイド・ドア。リアヒンジだ。
メンラッドのクルマのように、上品なピラーレス・ハードトップができたのも、コンバーチブルが用意されたおかげ。観音開きの長大なセダンで巡る、パーム・スプリングスのツアー。このクルマほど、ぴったりなモデルもないだろう。
コーチェラ・バレーの広い道は、ゆったりとしたクルージングにおあつらえ。巨大なコンチネンタルでさえも、窮屈には感じない。
淡い水色のコンチネンタルは、おそらく今まで見た中で一番に状態が良い。現役のコンチネンタルの中でも、最も高品質なレストアを受けていると思われる。