【ミッドセンチュリーの美】コンチネンタルでパーム・スプリングスを流す 後編

公開 : 2020.08.22 16:50  更新 : 2020.12.08 08:35

滑らかにゆったりと回る7LのV8

改めてコンチネンタルへ座る。フロントは広いベンチシート。その先の強大なボンネットを見ると、デザインで受けた感銘が薄れる。運転席から眺めるリンカーンは、ほかのアメリカン・クラシックと大して変わらない。

長いボンネットの下に隠れているのは、430cu in、7045ccという巨大な自然吸気のV8エンジン。1世代前、3代目のコンチネンタルと同じユニットだが、1958年式は380psあったものが、1961年の4代目では329psへ馬力が落ちている。

リンカーン・コンチネンタル(4代目/1961年〜1969年)
リンカーン・コンチネンタル(4代目/1961年〜1969年)

7LもあるV8エンジンらしい、上質なマナーを備える。遠くで放たれる低音のサウンドは、威圧的にも聞こえる。

カーブの続く道に入る。4代目リンカーン・コンチネンタルが作られる以前に建てられた、古びたモーテルを過ぎる。道幅が広く、大きなボディでも運転は難しく感じない。

ステアリングホイールの操舵感は漠然としている。パワーアシストは押し付けがましい。普通のクルマなら恐ろしいドライビング体験になりそうだが、巨大なコンチネンタルにはぴったり。ステアリングホイールを支える力は、指1本より、もう少しだけ必要だ。

ゆったりと回転するV8エンジンは、夢見心地。「ガス」ペダルを踏み込んでも、シルクのように滑らかに回る。

思いもよらず、積極的にフロントノーズを持ち上げる。ボンネットの先端に付いたマスコットも、一緒に上下する。

コンチネンタルの運転に、努力という言葉は存在しない。大きなボートが、大まかに進路を定めるように進む。広大なアメリカの、碁盤の目のような都市レイアウトだから、面倒なことは起きない。

きっかけは1968年式のコルベット

しばらく走って、メンラッドの美しい邸宅へとたどり着いた。アプローチの庭には2本の大きなヤシの木が生えている。「パーマー&クリセルという建築事務所によって、1957年に建てられた家です」

1961年式キャディラックが収まるガレージ前を走りながら、説明するメンラッド。「これらの家は基本的に別荘で、1年中住み続けることは意図されていませんでした。パーム・スプリングスの当時の人口は約8000人。夏には誰もいなくなったそうです」

リンカーン・コンチネンタル(4代目/1961年〜1969年)
リンカーン・コンチネンタル(4代目/1961年〜1969年)

「住宅の値段も安いとはいえませんでした。当時で3万2000ドル前後。ロサンゼルスの郊外なら、同等の家が1万1000ドルほどでした」

「この家を購入したのは1999年。6年後にリノベーションしています。ほとんど建てたままの状態で、セカンドハウスとして使っていたのでしょう。手が入ってたのはキッチンのみ。バスルームもガラスも綺麗でした」

「キッチンを当時の状態に修繕しています。屋外には、不要になったパイプや配線が放置されていました。カーポート内にオリジナルの外装色を発見し、壁を塗り直しています」

「わたしがこの家を購入する前、1968年式コルベットのレストアを頼んだことがありました。コルベット・ファンの間では、1968年式は特別なモデルです。ボルト・ヘッドのマークまで、完全なオリジナル状態に戻してあります」

「素晴らしいレストアに魅了され、その時代の美しい家に住まうことが目標となりました。1957年当時に、新築でこの家を購入したような気分になれるように」。コンチネンタルも、その流れなのだろう。

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