【マクラーレンの現在位置】日本のトップが大いに語る 620RとGT レーシング・コンストラクターの強み

公開 : 2020.08.13 06:20  更新 : 2021.10.11 09:34

「マクラーレン620R」はレースカーを最小限の調整で公道対応させた限定車。「マクラーレンGT」は日常使いも得意な1台。こんな2台が共存できるのは、なぜなのでしょう。日本法人代表にインタビューをしてきました。

レーシングカーを公道に マクラーレン620R

text:Kazuhiro Nanyo(南陽一浩)
photo:Kazuhide Ueno(上野和秀)

先だって開催されたオートモビル・カウンシル2020にて、マクラーレンはその輝かしいモータースポーツ活動と戦歴を、最新モデルである「620R」や「GT」と結びつけて見せた。

3月に発表されていたとはいえ620Rの導入枠はすでに完売しており、コロナ禍を感じさせない好調ぶりだ。

マクラーレン620Rは、レース専用モデルの「570S GT4」をベースに開発された、いわばレーシングカーの公道バージョン。
マクラーレン620Rは、レース専用モデルの「570S GT4」をベースに開発された、いわばレーシングカーの公道バージョン。    上野和秀

マクラーレン・オートモーティブ・アジアの日本代表である正本嘉宏氏は、620Rを手がかりに、日本市場におけるマクラーレンの現状と展望を、こう語る。

「そもそも620Rはレースで培った技術を公道に解き放つという点で、単なる自動車メーカーではない、レーシング・コンストラクターであるマクラーレンの本当の強味を市販モデルに活かした、きわめて“らしい”プロダクトだと思います」

レーシングカーが、どれだけ最低限のモディファイで公道を走れるか? という命題は、あらゆるスポーツカー・メーカーが挑んできたが、元よりクローズド・トラックを出自とするマクラーレンのアプローチは異なる。

570S GT4に基づくがレギュレーションの制約を受けないことで、逆に出力は570psから620psに達した。足回りにGT4譲りのレーシングダンパーを備えつつ、高負荷時の慣性を抑えるためより硬度に優れたパワートレイン・マウントを採用して、「挙動や一体感、ダイレクト感がLTとは比較にならないほど増しています」と、正本代表はいう。

また620Rは、19・20インチという前後異形のセミスリックタイヤを公道用に装着しているが、オプションのフルスリックタイヤにサーキットで履き替えれば、さらに接地面を8%増してより次元の高いパフォーマンスとタイムに到達するという。メカニカルなセッティング変更要らずで、スリックを履きこなすロードカーは前代未聞といえる。

マクラーレン体験を“深化”させること

自宅からサーキットでのパフォーマンスまで一筆書きで完結する、それこそ究極のロード&トラック体験をもたらす620Rは、世界限定350台で販売された。

日本では、どのようなオーナーの手に渡るのだろう?

オートモビルカウンシル2020の会場で日本披露されたマクラーレン620R。奥にはマクラーレンGTの姿も。
オートモビルカウンシル2020の会場で日本披露されたマクラーレン620R。奥にはマクラーレンGTの姿も。    上野和秀

「台数は公表していませんが、全世界で日本市場の割合は6~7%なので、それに準ずる数ですね。購入希望は多くいただくのですが、オーナーは熱烈なマクラーレン・ファンで、これまで570SやLTといった同じシリーズをすでに乗られてきた方にこちらからお声かけしているところがあります」

「乗り手や走る道も選びますし、フロントリフターもない分、停め場所も選びますので」

 さらにエッジの効いたマクラーレンを探し求める層が確実に存在することに、マクラーレンの日本での強いプレゼンスを感じさせるが、正本氏は事もなげに、こうも述べる。

「販売台数が右肩上がりに伸びていくフェイズは過ぎたものの、まだ8年目の若い会社ですし、マクラーレンが日本に根づいたとは思っていません。今はGT3/GT4へとモデルの端境期で、マクラーレンが本来的に得意とするカスタマー・レーシング分野でも潜在的な顧客はいると考えています」

「一方で30年近く前、マクラーレンF1から受容され始めた、レーシングカーだけではない、ロードカーというかスーパーカーとしての領域でも、まだ努力して拡大する余地はあります」

 実際にマクラーレンGT導入以降、従来のカスタマーとは異なる層、異なる価値観のカスタマーをとり込めているという。

「GTをお求めになる方は、やはりスパルタンさよりも日常域の広さ、よりスタイリッシュであることを重視される方が多いです。競合する他メーカーと、どのように比較検討されているか、その傾向も見えてきました」

記事に関わった人々

  • 上野和秀

    Kazuhide Ueno

    1955年生まれ。気が付けば干支6ラップ目に突入。ネコ・パブリッシングでスクーデリア編集長を務め、のちにカー・マガジン編集委員を担当。現在はフリーランスのモーター・ジャーナリスト/エディター。1950〜60年代のクラシック・フェラーリとアバルトが得意。個人的にもアバルトを常にガレージに収め、現在はフィアット・アバルトOT1300/124で遊んでいる。
  • 南陽一浩

    Kazuhiro Nanyo

    1971年生まれ。慶応義塾大学文学部卒業。ネコ・パブリッシングを経てフリーに。2001年渡仏。ランス・シャンパーニュ・アルデンヌ大学で修士号取得。2005年パリに移る。おもに自動車やファッション/旅や食/美術関連で日仏独の雑誌に寄稿。2台のルノー5と505、エグザンティア等を乗り継ぎ、2014年に帰国。愛車はC5世代のA6。AJAJ会員。

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