【高性能グランドツアラーを比較】ポルシェ911ターボS VS マクラーレンGT 後編
公開 : 2020.08.23 11:50
揺るぎないコーナリング
性能破壊級のターボSと落ち着いて比べると、マクラーレンGTはオールドファッションにさえ感じられてくる。素晴らしいマクラーレン600LTの存在があるだけに、予想外の印象でもある。
GTの電動油圧式ステアリングの操舵感は軽量で、600LTと似た感触を備えているが、情報のフィルタリング量は多い。エクスムーアのワインディングを走らせると、911の電動機械式のステアリングの方が、よりドライバーの気持ちを高ぶらせてくれる。
マクレーンGTの車重は1530kgで、911ターボSより110kgも軽いが、ライバルの驚くほどの積極性には及ばない。アンダーステアの傾向も、ほかのマクラーレンより強いようだ。
コーナーをハイペースで縫わせても、グリップ力が不足することはない。しかしフロントタイヤが容赦なく路面を掴み続ける感覚は、薄れてしまった。
引き締め上げられた姿勢制御を備えるターボSは、コーナーの侵入から脱出まで、揺るぎない。ただし筆者の印象としては、目を疑うほどの性能は備えていても、911には魂のような瑞々しさには欠ける。
操縦に対するリニアさ、安定感や反応の鋭さ、確かな操縦感覚は、走りを深く掘り下げることを許してくれる。カウンターステアを当ててテールスライドさせる、自由も与えてくれる。あるいはブレーキを使い、タイトコーナーを回っても良い。
911ターボSの柔軟性と積極性を最大限に引き出すには、少々周囲の目がはばかれるスタイルで走らせる必要がある。半分の価格のカレラ4Sでも近い体験は楽しめるが、911ターボSの素晴らしさが明らかになる。
期待値が高いマクラーレンのGT
マクラーレンGTは、ポルシェ911ターボSには敵わなかった。だが、それだけではない。
加速力でいえば、桁違いの911ほどではない。でもエンジンの存在感は控えめで、より自由に、シルクのような滑らかさで速度を乗せていく。
ポルシェが積むドライサンプのフラット6ツインターボより、マクラーレンのV8ツインターボの方がターボラグは大きい。反面、比較的軽量な車重のおかげで、ピーキーな620psを引き出し、興奮を味わえる。
ターボSは速度を保ったまま、フラットにコーナーを突き進む。マクラーレンはエレガントなスタイルで、流れるようにクリアしていく。45年間、堂々とリアエンジン・レイアウトを磨き続けてきたポルシェであっても、ミドシップのバランスには敵わない。
マクラーレンGTは高貴なグランドツアラーだ。荒れた路面ではステアリングへの影響が感取されるが、ターボSの大きく張り出したリアタイヤや、慌ただしい足まわりとは無縁。鮮明なステアリングと、滑らかな操縦性を備え、実用性も高められている。
しかし、素晴らしいロードマナーを備える、既存モデルの改良版という見方もできてしまう。ミドシップのグランドツアラーに対する、マクラーレンへの期待値は極めて高い。
乗り心地は、マクラーレン570Sの半歩前進程度に留まる。ドライバーとの関与はやや減じられ、ロン・デニスの口癖のような、最適化は果たせていないのではないだろうか。