【全SUV電動化、完了】ボルボのECV入門、「XC40リチャージ」に試乗してみた
公開 : 2020.08.25 11:50 更新 : 2021.10.09 23:31
メカニカルなノウハウあっての“インテリジェントな”PHEV
XC40リチャージPHEV T5は、先行するXC90やXC60といったSPAプラットフォームよりひと回り小さなCMAプラットフォームに基づくが、PHEVとしてのノウハウが多々活かせたことは察せられる。
駆動方式はFFでAWDではないが、センタートンネル内にバッテリーを収めた基本レイアウトは踏襲し、ICE版のAWDより車重は100kgほど増えたが、前後重量配分は変わらぬ約60:40だ。
バッテリー容量は10.91kWhで、SPAのPHEVの11.8kWhの9割強ながら、バッテリー重量は約113kgから約94kgと約17%も軽い。セルの構成を変えることで、車格に合わせて必要電圧を下げつつ運用エネルギー量をも最適化している。
バッテリーからの電力はインバーターを介して、トランスミッション一体化の電気モーターが前車軸を駆動する。
トランスミッション自体はツインクラッチ方式で、ボルボ社内の新開発による「7DCT-H」だ。1.5Lターボの動力は1-3-5-7速の奇数系列に、電気モーターのそれは2-4-6速の偶数系列に、それぞれのクラッチを介して伝わる。実際、DCTの変速動作のシームレスさが、そのままICE-電気モーター間の切替のスムーズさに置き換えられている、そんな感触だ。基本的にEV状態での発進は2速、電気側で繋がるが、よりトルクやパワーの要るICEとの協調制御では双方のクラッチがエンゲージされる。
首都高などある程度の速度域で走って、アクセルを踏み込んで負荷を増した時にようやくエンジン音が感じられる程度。コースティングとEV走行への切替があまりにスムーズなので、気がつくピレリPゼロの転がり音だけが耳をくすぐる、そんな調子だ。
限りなくエンジンの存在感が希薄に PHEVの先には…
そう、PHEVだというのにエンジンに感心させられたが、実はエンジンは最後の手段でしかないような扱い、それがXC40リチャージのユニークなところだ。
エンジンと電気モーターの合計出力262psのうち、電気モーターは82psで1.5Lターボが180ps、トルクはそれぞれ16.3kg-mと27.0kg-mあるので、走行中のどのような局面でも動力性能として不満はない。ややステアリングフィールとして中立付近が落ち着かないところはあったが、それまでのボルボらしからぬヤングでアクティブだったXC40が、すっかり洗練された大人のクルマになっていたことにも驚く。
オレフォスのクリスタルによるシフトの握りも、「~風」のなんちゃって素材が一切使われない本物のアルミやレザーやウッドによる内装など、最新世代のボルボとして欠けたるところがない。
バッド・サプライズのない燃費、静粛性が高くて軽快なフットワーク、穏やかに落ち着けるし「いいモノ感」に満ちた内装と、大ぶりで座り心地のよいシートに身を落ち着けていると、動力源がどちらなのかは、本質的な問題ですらなくなってしまう。
ちなみに今回の試乗車ではまだ「INSCRIPTION」となっていたが、「RECHARGE」という2021年式の市販モデルから採用されるモデル名にも触れておこう。
欧州ではコンセントに繋いで充電するPHEVかEVのことを、化石燃料の燃焼かブレーキ回生でしか充電されないハイブリッド車と分けて、「ECV(エレクトリカリー・チャージャブル・ヴィークル)」として分類している。
ようは自動車社会が電化された次はコンセントの向こう、太陽光か風力か水力か地熱か、あるいは石炭や原子力や火力かもしれないが、何からエネルギーを得て走っているか、それが問われるということだ。
入門用ECVとしてつまり、XC40リチャージはソツなく完成度が高いだけでなく、先々へキレイな放物線を示しているというか質の高いフィードとなりそうな、そんなファンタジスタぶりが光る。