【試作車と幻に消えた2シーター】デイムラー・ダート SP250とSP252 後編
公開 : 2020.09.05 16:50 更新 : 2020.12.08 08:34
楽しく安定感の高いダートの走り
テールフィンと弧を描くフェンダーのプレスライン。デイムラーSP250は、終焉を迎えようとしていた1950年代の美的感性でデザインされたのだろう。一方でライオンズ時代のSP252は、抑制の効いた保守的なデザインだ。
個性は薄いが、やはり美しい。見る角度によって、容姿が崩れることもない。どこかの時点でお金が費やされ、ボール紙のフロントグリルはクロムメッキされたスチール製へと作り変えられた。デイムラーらしい、繊細な波模様も入る。
車内には、初期ジャガーEタイプのダッシュボードが流用されている。ラックアンドピニオンのステアリングに変える際、バスのように大きなステアリングホイールは、現在の小径なものに変えられた。
シートはSP250と同じ。リアの小さなベンチシートは、カーペット敷きの荷物置き場になっている。
筆者もダートの運転はとても好きだ。ステアリングを除いて、250と252とで、ドライビング体験に大きな差は感じられなかった。
サスペンションは、フロントがウイッシュボーン式で、リアがリーフスプリングのリジットアクスル式。平凡な構成だが、不安感なく速度を上げていける。252のステアリングラックは、低速域でとても効果的。はるかに軽い。
コンパクトなボディで、クルマの中に座るというより、上に座っている感じがある。でも、Eタイプほどではないが、両者ともに安定感は高い。
タービンのようにスムーズなV8エンジン
穏やかなドライビング特性は、安全性も保ってくれ、いつも楽しい気分にしてくれる。荒れた路面では、サスペンションの限界がすぐに来るけれど。
V8エンジンはタービンのようにスムーズ。1960年代としては、例外的に高回転ユニットだ。しかも低回転域から太いトルクを生み出すから、1000rpm程度から静かに上品に走らせることもできる。
この洗練性とパワフルさは、オーバースクエアの設計にある。またシリンダーの燃焼室は半球形で、プッシュロッドは短く軽量。混合気の分配が可能な、吸気マニフォールドの設計もすぐれものだ。
トランスミッションは一般的なものだが、比率はよく考えられている。弱いシンクロメッシュを補うように、3速で160km/hまで届く。
SP252の運命は、英国の自動車産業が直面した財政的な問題や、実用性の要求に逆らえなかった。エンジンは1週間で140基以上の製造ができず、ジャガーMk2をベースとした、より高級なデイムラーV8 250サルーンは高い人気を得ていた。
Eタイプの強い需要に応えるべく、ジャガーは生産体制を強化する中にあった。高価で工数の多いSP252の生産に、大きな意味を見つけられなかったのだろう。
しかし唯一無二のSP252は、幻と消えたモデルとして、60年以上も生き延びている。複雑な歴史とともに、美しく。
ダートを名乗れなかったグラスファイバー製の2シーター・スポーツには、当時よりも沢山のファンが生まれている。筆者もその1人。今となっては、ハッピーエンドなのかもしれない。