【数奇なフランス・グランプリ】デューセンバーグに破れたバッロ 3/8 LC 前編
公開 : 2020.09.06 08:50 更新 : 2020.12.08 08:34
初のイタリア・グランプリでの優勝
今回ご登場いただいた残りの1台は、オーストリアのアレクサンダー・シャウフラーがオーナー。シャシー番号1006で、最近まで90年近く、英国で生き残っていた。
あまり良い状態ではなかったようだが、2019年の夏に美しく磨き込まれた。より自然で、新車時のような雰囲気に仕上げられている。
ボディに塗り直されたゼッケン11番は、フランス・グランプリの4ヶ月後に開かれた、イタリア・グランプリに付けられていたもの。バッロ 3/8として、唯一勝利を掴んだグランプリだった。
この頃の2シーター・グランプリマシンの運転席へ座る作法は、共通している。助手席側から体を入れ、大径なウッドリムのステアリングホイールの下へ、足を滑らせる。
低い位置のセパレートシートは、サイドサポートも良い。ライディング・メカニックが乗り込めば、車内はギュウギュウだろう。
ステアリングホイールが、スカットルより高い位置までそびえる。リムの上部は、筆者の目線上に来る。
アルミニウムのダッシュボードには、イエーガー製の大きなレブカウンターと、油圧計と燃料計がシンプルに並ぶ。真鍮製のラップカウンターに点火時期の調整レバー、ハンドスロットルも付く。残念だが、当時のダッシュボードを撮影した写真は残っていない。
ボディの内側、ドライバーの足元からは、一般的なH型ゲートを介して変速するシフトレバーが伸びている。フックが付き、4速に固定できる。
荒々しい燃焼音と気持ちいい吹け上がり
インディ500でドライバーがシフトミスを防ぐため、あるいは160km/h以上の速度で荒れた道を走っても、ギアが抜けないための工夫だった。
バッロ 3/8のレーシングドライバーとしてフランス・グランプリに招聘されたのは、アメリカ人のラルフ・デ・パルマ。彼のアイデアで、一度ダイレクト・センターシフトへ変更されている。
ドライバーが両手でステアリングを握っていても、ライディング・メカニックがプリセレクター式のトランスミッションのように、変速が可能だった。
現オーナーのシャウフラーは、彼のコレクションを実際に走らせて楽しんでいる。ウイーンの道での実用性を考えて、控え目なスターター・モーターを取り付けてある。
燃料タンクが加圧されると、ツイン・クローデル・キャブレターがプライミングされる。点火時期を遅らせ、3.0Lの直列8気筒が威勢よく目覚めた。大きなサイレンサーが、わずかに丸めてくれているが、サイドエグゾーストから荒々しい燃焼音が放たれる。
最高出力は、4000rpmでおよそ100ps。吹け上がり初めにフラットスポットがあるが、それを過ぎると気持ちよく回転を早める。トルクフルで、レスポンスに優れる。
低速域では、ステアリングは重く鈍い。速度が上がるほど、反応はダイレクトさを増していく。
鋭い反応は、グラベルでのコーナーの進入時や脱出時に、修正舵を当てやすい。細いリアタイヤがトラクションを失い、外へ流れても対処できる。