【空冷エンジンの現役トリオ】ホンダN360 VWビートル シトロエン・アミ 後編

公開 : 2020.10.03 16:50  更新 : 2022.08.08 07:37

型にはまらない成り立ちのアミ

直線加速は34psのフラット4を持ってしても、速くはない。徐々に速度が増していく。

低いギアで回転数を引っ張っても、うるさいだけで加速が伸びるわけではない。この頃の空冷式エンジンはどれもそうだが、回すほど燃費が著しく悪くなる。

シトロエン・アミ8(欧州仕様/1969〜1978年)
シトロエン・アミ8(欧州仕様/1969〜1978年)

リアエンジンだから、ガラガラとしたエンジン音は速度が増すほどに後ろへ流れる。ビートルの特長の1つだ。

ジャーマンが持つもう1台、シトロエン・アミ8 ブレークは、折り目のきっちりついたブリキ缶。筆者が学生だった頃、ヒッピー風の先生が乗っていた。

発売は1969年で、オリジナルは1961年のアミ6。だが、2CVのモデルチェンジを狙って失敗したC60や、プロジェクトFプロトタイプといったモデルの影響も受けている。同時期には、ルノー16という5ドア・ハッチバックもあった。

1968年から1978年の間に、アミ8は75万5000台が作られ、成功したモデルだったといっていい。小さな5ドア・エステートボディに、クロスの貼られた快適なベンチシートを備え、型にはまらない成り立ち。でも、良くできたクルマだ。

車内には、充分な頭上空間がある。フロアはフラットで、荷室空間も広い。

ステアリングホイールはシングルスポークで、140km/hまで振られたスピードメーターがよく見える。ヒーター以外の操作系は、ステアリングコラムに集約されている。サイドガラスは、スライド式。

浮いているようにソフトな乗り心地

中折れのシフトノブがダッシュボードから伸びる。水平対向2気筒はにぎやかで、活発に走るには、せわしなく変速を繰り返す必要がある。主に、2速と3速を行ったり来たり。

エンジンは、気だるく回転数を上げる。交通の流れに乗るには、高い回転数を保ちたい。

シトロエン・アミ8(欧州仕様/1969〜1978年)
シトロエン・アミ8(欧州仕様/1969〜1978年)

フロントがリーディングアーム式、リアがトレーリングアーム式のサスペンションは相互接続され、乗り心地は素晴らしくソフト。通過する路面の乱れを、浮いているように均していく。

ボディロールは盛大。しかしシトロエンだから、ロードホールディング性も高い。同乗者の機嫌を気にしなければ、アミ8は積極的にコーナーを縫っていける。

クルマのコレクションの内容は、人それぞれ。ランダムに集める人もいれば、似たようなクルマに特化する人もいる。同じモデルだけでは、たとえ個性的なクルマでも、さほど面白くはない。

ジャーマンが所有するモデルは、どれも走りはエキサイティングではない。そのかわり、知性の面での満足感が得られる。

空冷エンジンにこだわった3台は、それぞれの国の自動車事情を反映している。社会が必要としていた、手頃なコンパクトカーを表している。

騒音や環境汚染といった課題に、良く効くヒーター。社会が必要としていたのは、空冷エンジンではなかった。

フォルクスワーゲンビートルも、シトロエン・アミ8もホンダN360も、社会から冷たい視線を浴びる前に、後輩へと道を譲った。手遅れになる前に、水冷という新しい一手が打たれた。

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