【イタリア製のオープン・リムジン】フィアット2800ロイヤル・トーピドー 後編
公開 : 2020.10.04 16:50 更新 : 2020.12.08 08:38
ファリーナ社製の芸術品のようなボディ
「当時のイタリアでは、州外に引っ越しする場合、ナンバープレートの再交付が必要でした。しかし義父は、オリジナルのRoma 7 3183というナンバープレートを残したいと考え、手続きをしませんでした」
「警察からナンバーの指摘を受けたのは、1度だけ。しかもクルマの貴重さを理解し、罰金はなかったそうです」
オーナーが続ける。「彼はこれまで、1万kmほどを2800ロイヤル・トーピドーで走っています。イタリアだけでなく、英国やフランスの自動車イベントにも足を伸ばしています」
アルチェステの名を受けた2800ロイヤル・トーピドーには、素晴らしいディテールで溢れている。ボディサイドのファリーナ社製のエンブレムは初めて見るものだし、銀細工のようなドアハンドルの仕上げも見事だ。
イタリアのコーチビルダーによる、芸術品のようなボディ。不格好にドアヒンジが外に露出している。
小さなリアガラスの日よけカーテンには、不気味な汚れが残っている。しかし、優雅なウッドトリムには触れたくなる。センターウインドウを下げると、Bピラーが巧妙に畳まれる。
フロントガラスの上部にはヒンジが付いている。夏の日でも、ドライバーは涼しく運転できる。リアには非常用の折りたたみシートが備わる。シート全体は、ダークブルーのレザー張りだ。
強い印象を得られない走り
リアシートの位置は高く、運転席とを仕切るガラス張りのコンパートメント越しに、ダッシュボードが見渡せる。
ドライバーは、背が低い人の方が良いだろう。クリーム色の計器類と、ベークライト製のスイッチ類が正面に並ぶ。80年を過ぎ、機能表記のほとんどは、摩耗して消えている。
大きなイグニッションキーをひねり、スターターボタンを押す。センターヒンジのボンネットの内側で、2.8Lのストレート6が目を覚ます。
エンジンには、あまり華がない。ゼニス製のキャブレターが1基、鋳鉄製のマニフォールドの上に載っている。エアクリーナー・ボックスもきれいとはいえない。クロームメッキのクーラントパイプが、大きなロッカーカバーに並走している。
運転させてもらう。車重は2t近くあり、86psで、車齢は81才。これといった強い印象が得られなかった。
少なくとも、走って、止まる。大きな姿勢変化とともに、コーナーを曲がる。
フロアヒンジのアクセルペダルを踏み、トラックのような大きいステアリングホイールを回し、600mmくらいある長いシフトノブを動かす。リアシートの要人を可能な限り平穏に保ち、簡単に運転できるように設計されている。
このアルチェステは、ほほオリジナルのまま。ホワイトウォールのタイヤと、塗り直されて時間が経っている塗装、イタリアで歴史的に重要なクルマであることを示す、ASIの真鍮製プレートを除いて。