【水素技術、勝者になるか?】ジャガー・ランドローバーの動向に注目 グリーン水素がキーか
公開 : 2020.09.29 11:53 更新 : 2022.11.01 08:42
エネルギーの常識を変える
欧州連合(EU)は、2024年までに脱炭素化された水素の生産と、2030年までに少なくとも40GWの再生可能エネルギーによる水素生産を行うという、グリーン水素導入の野心的な計画を発表している。
「アナリストは、クリーンな水素が、2050年までに世界のエネルギー需要の24%を満たし、年間売上高は6300億ユーロ(79兆4500億円)となると予測しています」とEUレポートは述べている。
「再生可能電力が安い地域では、2030年までに、電気分解の水素が化石ベースのそれと競争できるようになると期待されています」
税、輸送、生産者の利益を考慮に入れても、再生可能エネルギーで供給される水素電力は、今後10年間でコスト競争力を持つようになると予想されている。
水素が現在、ゼロカーボン燃料として大きな関心を集めている理由はいくつかある。
電車や船舶を含む重量物輸送は、バッテリー電気技術では、エミッションフリーを実現できないことがわかっているが、商用車用の水素燃料補給ネットワークを利用すれば、水素乗用車の普及は可能だと考えられている。
トヨタ・ミライやヒュンダイ・ネクソなどの水素燃料電池EVのコストが高いのは、生産規模が小さいからであり、商用車の使用を増やすことで、コスト削減が可能となる。
水素はエネルギーの常識を変える可能性もある。
中国と欧米の間のかけひきにより、バッテリーと希土類鉱物の供給が制限される可能性があり、結果的にヨーロッパでは、再生可能な水素の安定した供給網が実現することもありえる。
貯蔵に関する問題も解決か
水素燃料の車両への貯蔵に関する問題も、解決しつつある。
現在、水素は高圧で貯蔵する必要があり高いコストがかかる。
また、クルマに搭載するのが非常に難しく、高価なフィラメント・ワインディング・タンクが必要となっている。
米国ノースウェスタン大学の研究者と科学者のチームは、「金属有機フレームワーク」と呼ばれる新しい材料を開発した。
これにより、特定のスペースに、はるかに低い圧力で、はるかに大量の水素ガスを、貯蔵することができる。
材料はスポンジのようにガスを吸収し、圧力をかけてガスを放出することができる。
この技術により、今日のバッテリーパックと同じフロア下のスペースに、水素タンクを収められるようになる可能性がある。
JLRの次期型MLA多燃料自動車プラットフォームへの、追加のパワートレインとしても理想的なものとなるだろう。
ドイツでは、コンパクトな水素タンクが開発されており、フランスの部品サプライヤーであるフォルシアは、燃料ガス1kgあたりの生産コストが400ポンド(5万円)となる新しい熱可塑性水素貯蔵タンクに取り組んでいる。
重量とコストに関するエンジニアリング上の理由もあり、水素燃料電池技術は、確かに少なくとも大型車では、バッテリー電気パワートレインよりも優れていると言えるだろう。
現行型トヨタ・ミライの3つの水素タンクは重量が87kgで、5kgの燃料ガスから航続距離500kmを提供する。
一方、バッテリー電動モデルであるテスラ・モデルSロングレンジは、約540kgの95kWhバッテリーから、最大で515kmの航続距離を提供する。
燃料電池スタックや小型バッテリーを追加した場合でも、水素燃料電池車がBEVよりも重量の点で優れていると言えるだろう。
現在のEVバッテリーの生産コストは、kWhあたり約118ポンド(1万6000円)であり、95kWhのバッテリーパックの製造コストは、約1万1000ポンド(153万円)と言われている。
フォルシアの、年間約3個の限定生産の熱可塑性水素タンクでさえ、同様のパワーでたったの1820ポンド(25万円)となっている。
かつては将来性がないと見なされていた水素燃料電池技術は、実際には自動車産業の脱炭素化競争の勝者となる可能性がありそうだ。