【喜びを追求したスーパー・シリーズ】マクラーレン765LTへ試乗 セナに迫る765ps 後編
公開 : 2020.10.14 12:20
スーパー・シリーズに追加された「マクラーレン765LT」の試乗レポート、後編です。英国・シルバーストン・サーキットを攻め込んできました。“最もエンターテインメント性が高い”マクラーレンと報告されています。
穏やかなオーバーステアに持ち込める
ブレーキポイントを遅らせつつ、いつもより高い速度でコーナーへ進入する。ブレーキを少し引きずりながら、内側の縁石にタイヤを霞めさせる。マクラーレン765LTのシャシーには、常に一歩先を走るような余裕がある。
サーキットで上限のラップタイムに迫るには、相当な勇気とスキルが必要だろう。しかし、試さなければ、765LTが泣く。
マクラーレン・セナでは同じことを、より活き活きとこなせた。765LTにも似た味わいがある。こんなドライビング体験は、マクラーレン以外では叶えられない。
パワートレインとシャシーは、トラック・モード。電子制御は、ESCダイナミック・モードにしてある。
765LTの速度域を上げていく。フロントタイヤへの意識は薄くなり、リアタイヤ側の挙動に神経が向かう。
スロットル操作で、これほど穏やかなオーバーステアに持ち込めるロードゴーイング・マクラーレンは初めて。オールドスクールな味わいが、ドライバーの遊び心を刺激する。
高速コーナーでは、スーパーカーらしい安定性も出てくる。絶妙な設定だ。2速や3速で回るカーブなら、765LTを簡単にテールスライドさせて楽しめる。
さらにアクセルペダルを踏み込むと、やや予測が難しくなる。ESCがアクティブで、最も寛容な設定なら、パワーオーバーステアを維持しながら自己満足に浸ることができる。ライバルのミドシップ・モデルと同様に。
最もエンターテインメント性が高い
しかし、ステアリングホイールでの修正は、想像以上に忙しい。リアタイヤにかかるトルクを、電子制御システムは緻密に計測している。挙動は完全に自然、という印象はない。
自信があれば、電子制御アシストはすべてオフにし、より深いドリフトアングルに持ち込むこともできるだろう。だが、避けられないスピンモードに陥る境界線は、かなり繊細。
ブースト圧が高まり、81.6kg-mという巨大なトルクが沸き立つと、ブレーキ・ベースのトルクベクタリング・システムは、処理しきれなくなるようだ。突然に。
筆者は、マクラーレンが生み出してきた量産モデルの中で、最もエンターテインメント性が高いと感じた。サーキットでも速く、運転に夢中になれる。ペースを落として一般道を走れば、ドライバー次第で豊かな満足感も与えてくれる。
一次元的なクルマではまったくない。派手なコーナリング時の自然な動き、ハイスピードを身近に楽しめる点については、ライバル勢にも豊かな経験がある。
765LTは、マクラーレンとしては初めて、実測として速く走れるということ以上に、どれだけの喜びを味わえるかに意識が払われたモデルのように感じる。さまざまなドライビングスタイルや、走行シーンにおいて。
おそらくマクラーレンなら、765LTをもっと明確に速さを求めたモデルにも仕立てられただろう。だが今回はウォーキングの街にある資産を活用し、これまで以上に運転に没入できるクルマとして、すべての力が注がれたように思う。