【マツダの戦略は?】EV航続距離のジレンマ コストや環境負荷、性能に影響も
公開 : 2020.10.21 11:17
生産時のCO2排出量も公表すべき
マツダの判断は、英国政府の「全国旅行調査」のデータに裏付けられている。同調査によると、昨年の平均走行距離は13.5kmで、2009年から変わっていない。
一方、RAC財団の調査によると、英国のドライバーの年間平均走行距離は1万6700km(1日当たり約45km)、EV所有者の平均走行距離は1万5000kmとなっている。
マツダだけではない。ボルボから派生した高級車ブランドのポールスターは、EV生産によるCO2排出量のデータを公表し、プリセプト・コンセプトの市販化の準備を進めている。
ポールスターの社長であるトーマス・インゲンラスは、市場での「競争力」を高めるために航続距離を480km程度にすることを示唆したが、業界は「航続距離を競う競争の中で無責任な方向に進んでしまうことはできない」と語った。
「クルマをより効率的にするという話には大賛成ですが、最長の航続距離を作るためだけに『kWh』を詰め込んでいるのであれば、持続可能なクルマに近づくことにはなりません」
インゲンラスは、自動車をより早く、より簡単に充電できるようにするための急速充電インフラを構築することに焦点を当てるべきだと述べている。
自動車のCO2排出量の削減やリサイクル素材の使用量の増加などを通じて、ポールスターは持続可能性(サステナビリティ)をマーケティングの重要な要素としている。
問題は、消費者が同意するかどうかだ。KPMGの調査によると、業界幹部の98%がサステナビリティを重要な差別化要因と考えているのに対し、サステナビリティを重視している消費者は83%にとどまるという。また、経営者側と消費者側の42%が「サステナビリティが製品の特徴になる」と考えているようだ。
KPMGは自動車メーカーに対し、ポールスターのように自動車の製造に伴うCO2排出量を公表すべきだと提案している。しかし、今後の課題は、サステナビリティが航続距離と同様に重要であることを消費者に理解してもらうことである。
マツダのマルチな戦略
マツダは、他の自動車メーカーと同様に、EVに全面的にコミットしているわけではない。その代わりに、市場の需要やニーズに応じて展開する製品を変えることができる「マルチソリューション」戦略を採用している。
マツダにはMX-30、3、CX-30などに使われる小型プラットフォームと、CX-5などに使われる大型プラットフォームを存在する。小型プラットフォームはEVパワートレインを搭載できるように設計されているが、大型プラットフォームはハイブリッドやプラグイン・ハイブリッドによる電動化が可能だ。
ヨアヒム・クンツは次のように述べている。
「長距離を走るお客様はEVを買わずに、ハイブリッドやプラグイン・ハイブリッドを選ぶでしょう。EVのサポート体制が整っていない国では、このようなクルマが鍵を握っています」
また、クンツによると、マツダは再生可能な合成燃料の研究にも投資しており、これによりCO2を排出せずにエンジンを動かせば、EVと同等のクリーンさを実現できるという。