【インド横断2700km】58年前のヒンドスタン・アンバサダー 予想外に楽しいドライブ 前編
公開 : 2020.11.07 07:20 更新 : 2020.12.08 08:40
急成長を続けるインドですが、少し前の国民車といえば、ヒンドスタン・アンバサダー。モーリス・オックスフォードをベースとし、2014年まで生産されていました。58年前のアンバサダーで敢行した、インド横断旅行をご紹介します。
インド・ビッグ3の1社、ヒンドスタン
計画を言葉にすると単純。1960年代のヒンドスタン・アンバサダーMkIをインドの西海岸で手に入れ、走れる状態に直す。自走でインドを横断し、東海岸へ向かう。そこから英国へ、船で運ぶ。
筆者にとって、インドは自動車旅行をしたいと思ってきた土地の1つ。友人のエド・ヒューズと、パブでよく話題に上がる場所だった。現実させようと決意したものの、実行までには半年もの時間を要した。
英国の植民地状態にあったインドが、独立したのは1947年。ライセンス・ラージという規則で、インドへクルマを輸入すると、高い関税が掛かるようになった。インド国内の企業との提携が、海外企業にとっては市場参入の近道だった。
自動車の普及とともに、国外の自動車ブランドが次々にインドへ進出。英国モーリスと提携したヒンドスタン、英国のスタンダードによる現地のスタンダード、クライスラーと手を組んだプライマーという3社が、インドにおけるビッグ3になった。
例えば、ヒンドスタン・コンテッサというクルマは、ヴォグゾール・ヴィクターのボディに、いすゞ製のエンジンが載っていた。ローバー3500などが属するSD1シリーズは、スタンダード製の4気筒エンジンを積み、スタンダード2000として売られた。
閉鎖的な市場の中で、時代遅れのクルマが作られ続けた。1980年代に入り経済の自由化が進み、輸入車が流入するまで。
クルマの寿命が短いインドの過酷な環境
風変わりな旧車好きにとっては、絶好の中古車市場にも見える。だが環境は激しい。高い気温と湿度、砂埃、過酷な交通事情がクルマの劣化を早める。マッド・マックスに出てきそうな無骨なバスも、10年以上の走行に耐えることは珍しいという。
経済成長も著しく、古いクルマは容赦なくスクラップになり、鉄塊に溶かされる。年代物のクルマがあっても、無数の修理を受けている。
そんなわけで、モーリス・オックスフォードがベースになった、状態の良いヒンドスタン・アンバサダーを見つけるのに数か月を要した。ネットをくまなく検索したが、多少の整備で走行できそうなアンバサダーは出てこなかった。
インドのタクシー乗り場で、クルマを買い付けることも検討した。往年のインドの雰囲気を味わうべく、初期モデルにはこだわった。
売り手とのコミュニケーションも難航。メールの返信はほとんどなく、電話でのやり取りは、言葉の壁が立ちはだかる。そこで交渉人を立てることを決意。友人づてに、プレム・チャンドラという人物を紹介してもらった。
プレムは、ヒンドスタン・アンバサダーに関してはベテラン・オーガナイザー。計画の実現に向けた多彩な能力と、広い知識を備えた紳士だ。
彼とともに決めた出発地点は、インドの西海岸の街、コジコード。プレムの故郷でもある。目的地は東海岸のチェンナイ。電子メールでの問い合わせに丁寧に応じてくれた海運会社、プロカーゴ社の拠点がある。