【インド横断2700km】58年前のヒンドスタン・アンバサダー 予想外に楽しいドライブ 後編

公開 : 2020.11.07 16:50  更新 : 2020.12.08 08:40

急成長を続けるインドですが、少し前の国民車といえば、ヒンドスタン・アンバサダー。モーリス・オックスフォードをベースとし、2014年まで生産されていました。58年前のアンバサダーで敢行した、インド横断旅行をご紹介します。

すべてが同等に劣化し調和するように動く

text:Sam Glover(サム・グローバー)
photo:Sam Glover(サム・グローバー)/Ed Hughes(エド・ヒューズ)
translation:Kenji Nakajima(中嶋健治)

 
1962年式ヒンドスタン・アンバサダーの準備は整った。旅支度は完了。インドでの自動車旅行は、今までにない強烈な体験になった。

走行中の変速は、ダブルクラッチが不可欠。緩いシフトノブを、正しいタイミングで正しい位置にスライドする必要がある。

ヒンドスタン・アンバサダーMkI(1957年〜1962年)
ヒンドスタン・アンバサダーMkI(1957年〜1962年)

コンロッドを支えるビッグエンド・ベアリングがガタつき、トランスミッションからは悲鳴のような音がする。プロペラシャフトやデフからもメカノイズ。ドライブトレインのすべてが、ノイズや振動を発する。

しかし、永久に壊れないような、奇妙な印象もあった。すべての部品が同等に劣化し、調和するように動いている。何か1つを新しくすると、微妙なバランスが崩れ、逆に壊れてしまいそうだ。

ギア比は低く、加速は意外なほどに活発。80km/hでの巡航走行も、不思議な調和の中でできる。速度が増すと、足回りからは飛んでいるヘリコプターのような唸りが響く。

郊外の下道での運転は、素晴らしいゲーム感覚。市街地へ入ると、歩行者に家畜、自転車、トゥクトゥク、バスにトラックが入り乱れる。一方で国道に入ると、驚くほど滑らかに交通が流れている。

クラクションは、悪意なく積極的に使える。バスもトラックも、かなり強気に走る。お互いに親切心が根底にあり、口論にはならない。牛の群れが静かに道路脇に漂い、禁欲主義的な雰囲気を漂わせていた。

危険の連続だった山脈超えのヘアピン

絶対に守るべきは、人と牛にぶつからないこと。それ以外のルールは、なんとかなる。混雑したT字路の右折では、徐々に横切るクルマの間を進めば、抜けることができた。意思を持って進み続け、予想外の運転をしなければ、大丈夫。

夜道は恐ろしかった。ハイビームのクルマと、無灯火のクルマが混ざって走ってくる。先が読めない。

ヒンドスタン・アンバサダーMkIでの旅の様子
ヒンドスタン・アンバサダーMkIでの旅の様子

初日の旅程は、コジコードからマイスールまでの220kmほど。とても厳しい試練だった。

西ガーツ山脈を超えるルートで、ヘアピンは危険の連続。ブラインドコーナーの間で、バスやトラックをクルマが追い越してくる。切り立った崖を、急勾配で上り下りする。クルマを避ける路肩もほとんどない。サルが木の上から、冷淡な目で見ていた。

山脈を抜けると、風光明媚な景色が広がる。翌日は高速に乗り、海岸沿いのゴカルナという町へ目指した。

素晴らしいドライブ・ロードがある。アンバサダーは、運転が楽しい。インドで2つの啓示を受けた気がした。郊外の道には寂れた区間もあるが、舗装が良く、カーブがいい調子で連続している区間も多い。

アンバサダーは、時代遅れだし動的性能では劣る。でも意外なほど、乗り心地はしなやか。路面の起伏や凹凸も、きれいに均してくれる。コーナリングスピードは想像以上に高く、落ち着いている。

次の日はインドの西海岸を北上し、ポルトガル領だったパナジの街を目指す。積極的に運転されたアンバサダーは、ブレーキペダルが深く沈むようになった。タイヤを外しシューアジャスターを調整すると、ブレーキの効きは回復した。

おすすめ記事

 

人気記事