【次期MIRAIと出会う】トヨタ・ミライ、新型プロトタイプ試乗 後輪駆動のTNGA、走りは変わる? 航続距離850km/5人乗り

公開 : 2020.11.02 07:10  更新 : 2021.12.27 23:57

どんな感じ?

試乗コースは、富士スピードウェイのショートコース。低中速の起伏に富むコーナーで構成され、必然的に動力性能は低中速でのダッシュ力が中心の評価になる。

そこは電動の最も得意とした領域であり、アクセルを深く踏み込めば2t近い車体を軽々と加速させるが、速度上昇に応じて踏み込み直後、あるいは踏み込み中よりも加速が垂れていく。

新型ミライ・プロトタイプ(Z)。新型は、ホイールベースを先代より140mm延長。ボディサイズも変わり、全長は+85mm、全幅は+70mm、全高は-65mmとワイド&ローに。
新型ミライ・プロトタイプ(Z)。新型は、ホイールベースを先代より140mm延長。ボディサイズも変わり、全長は+85mm、全幅は+70mm、全高は-65mmとワイド&ローに。    森山俊一

悪く言えば、急な踏み込み時のダッシュ力は演出なのだろう。

一般路走行よりは踏み込み量は深くなるものの、穏やかなペダル・コントロールを行えば応答性よく力強く加速。

加減速はペダル踏み込み量相応であり、刺激を抑えた質のいいパワーを感じさせてくれる。

恒常的に前述の初期加速同様に反応されては運転疲れしてしまうが、たまには気合いを入れて、という時のお楽しみと考えれば悪くない。

タウン&ツーリングでは素直な力強さでゆったり、スポーティ・ドライブでは昂揚感をもたらすダッシュを効かせて切れよく。

プレミアム感とファン・トゥ・ドライブを無理なく両立させたドライブフィールである。

足さばきは“しなやか”

GA-Lプラットフォームから開発されているので便宜上FRとしたが、モーター搭載位置では後車軸直前のミドシップ。

FCスタックはボンネット内で、駆動用2次電池は後車軸上と、駆動関連機構は分散配置。で、前・後輪軸重配分は50対50。

乗車定員は5名となった新型プロトタイプの後席。エグゼクティブ・パッケージでは、後席乗員用のアシストグリップを前席シートバックに装着。また、助手席肩口のパワーシート・スイッチを操作すれば、後席のレッグスペースを拡大できる。
乗車定員は5名となった新型プロトタイプの後席。エグゼクティブ・パッケージでは、後席乗員用のアシストグリップを前席シートバックに装着。また、助手席肩口のパワーシート・スイッチを操作すれば、後席のレッグスペースを拡大できる。    森山俊一

「50対50」神話に躍らされる気はないが、重量配分と後輪駆動を上手に使ったフットワークなのは間違いない。

深く長いサス・ストロークを使いながら、前後輪のグリップバランスやピッチ姿勢を大きく乱さない。

「しなやか」と「安定」と言ってしまえば凡庸にも聞こえるが、なかなか他車では味わい難いものだった。

コーナリングの評価は?

コーナリング時のロールは比較的大きいが、ストローク速度も速め。にも関わらず底突き感や揺れ返しがほとんどない。

最後の一粘りが絶妙。ロール感は内輪の伸びより外輪の沈み込みを意識する。

コーナリングについては、「ロール感は内輪の伸びより外輪の沈み込みを意識する」と筆者(川島茂夫)。
コーナリングについては、「ロール感は内輪の伸びより外輪の沈み込みを意識する」と筆者(川島茂夫)。    森山俊一

加速時に後輪に荷重が掛かる感じも心地よい。縁石の突き上げも柔らかにこなす。

必要以上の回頭反応がなく、操舵量に神経質になる必要もない。

打てば響く様な操縦感覚ではないが、限界域でも崩さない懐深い穏やかさは、ドライバー向けトヨタセダンの最上級モデルに相応しいものである。

「買い」か?

FRプラットフォームで50対50の重量配分にファストバック風のボディシェル。

エコのGT、ミライ・アスリートとでも言いたくなるようなクルマを想像していたのだが、時たまのヤンチャにも付き合ってくれるものの、基本は深みと大らかさの大人っぽいクルマのようだ。

エグゼクティブ・パッケージでは、助手席に乗員がいない場合は、ヘッドレストを倒して後席乗員の視界を広げることができる。新型ミライは、空気清浄機能を搭載。発電のために吸い込んだ空気を、特殊フィルターできれいにして車外に排出。走れば走るほど地球をキレイにするという。
エグゼクティブ・パッケージでは、助手席に乗員がいない場合は、ヘッドレストを倒して後席乗員の視界を広げることができる。新型ミライは、空気清浄機能を搭載。発電のために吸い込んだ空気を、特殊フィルターできれいにして車外に排出。走れば走るほど地球をキレイにするという。    森山俊一

一般路での本当の振る舞いは分からないが、ショート・サーキット試乗で得た印象は、ちょっとアスリートをトッピングしたミライ・マジェスタだった。

いささかクラウンを引き合いに出しすぎたが、エコプレミアムの特殊性を誇示するのではなく、正統派上級プレミアム・セダンとして開発されたFCVであるが故に、クラウンの上位モデルとしてもピタリと収まるのだ。

水素ステーションが少ないのは泣き所だが、WLTCモードで約850kmの満タン航続距離があれば長距離用途にも余裕で対応できる。

価格は装備揃えなら先代よりも安く、クラウンの最上級モデルとも絡んでくる。同価格帯には欧州のプレミアム・セダンも多い。

趣味の問題を別にして、もし近所に水素ステーションがあるのなら、同価格帯の候補車筆頭に推したいモデルである。

記事に関わった人々

  • 執筆

    川島茂夫

    Shigeo Kawashima

    1956年生まれ。子どものころから航空機を筆頭とした乗り物や機械好き。プラモデルからエンジン模型飛行機へと進み、その延長でスロットレーシングを軸にした交友関係から自動車専門誌業界へ。寄稿していた編集部の勧めもあって大学卒業と同時に自動車評論家として自立。「機械の中に刻み込まれたメッセージの解読こそ自動車評論の醍醐味だ!」と思っている。
  • 撮影

    徳永徹

    Tetsu Tokunaga

    1975年生まれ。2013年にCLASSIC & SPORTS CAR日本版創刊号の製作に関わったあと、AUTOCAR JAPAN編集部に加わる。クルマ遊びは、新車購入よりも、格安中古車を手に入れ、パテ盛り、コンパウンド磨きで仕上げるのがモットー。ただし不器用。

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