【現存する唯一のフレンチ・クーペ】ローゼンガルト・スーパーセプト・クーペ 前編

公開 : 2020.11.21 07:20  更新 : 2020.12.08 08:18

前輪駆動への感心と事業再編

積極的に広告展開し、耐久性のテスト結果を全面的に打ち出した。5CVは低価格で経済的な自動車として、一定の支持を集めるに至った。

1932年には6気筒エンジン・モデルを追加。さらにアドラー・トライアンフのライセンス生産もスタートさせる。それが、アンドレ・シトロエンに前輪駆動モデルへの感心を持たせるきっかけにもなった。

ローゼンガルト・スーパーセプト・クーペ(1938年)
ローゼンガルト・スーパーセプト・クーペ(1938年)

ローゼンガルトがアドラーの先進的な技術、フロントエンジン・フロント駆動に集中して事業を進めていれば、自動車メーカーとして成長していたかもしれない。ローゼンガルトは、その技術をスーパートラクションと名付けた。

しかし、自動車事業は数年で立ち行かなくなる。新鮮さを失っていた5CVには、新しいボディが与えられ、1649ccのアドラー4気筒サイドバルブ・エンジンへ換装。同じエンジンで、新しい中型モデルも発表した。

ローゼンガルトのモデルには一貫性がなく、モザイクのような状態になっていた。1936年にアドラーとの契約は破綻。ローゼンガルトは資金難に陥り、会社は事業再編を余儀なくされ、残った工場の生産ラインは5CVだけになった。

1935年にボディデザインはリフレッシュされていたが、オースチン・セブンがベースとなる5CVの基本設計は1920年代。旧式のトランスミッションやブレーキ、フロントアクスルを備え、クルマとしての訴求力は失っていた。

ところが、行動力に長けていたローゼンガルト。挽回を目指し、直列6気筒エンジンを復活させ、上級モデル市場への参入を計画する。

美しいボディに包まれた目を奪われる車内

前輪駆動のスーパートラクションを復活すべく、シトロエン・トラクシオン・アバンのフロントと、アドラーのリアを組み合わせるという、トリッキーな方法を選んだ。それが、今回のスーパーセプトだ。

このローゼンガルト・スーパーセプト・クーペは、英国ヒストリック・ビークル・クラブの会長、デビッド・ホエールが所有している。一見可憐なクーペだが、詳しく観察するほど、ローゼンガルトは早々に工場をたたむべきだったと思えてくる。

ローゼンガルト・スーパーセプト・クーペ(1938年)
ローゼンガルト・スーパーセプト・クーペ(1938年)

エアロダイナミックと呼ばれたボディが、鮮やかな赤いホイールの上に載っている。エレガントな女性のためのクルマ、とカタログでは表現された。

「パリジャン風のボディの、美しいクルマです。1938年当時の街の様子が想像できます。とても垢抜けたスタイリングですよね」。と話すホエール。

インテリアは、カーペット以外はすべてがオリジナル状態。ボディのスタイリングと同様に、目を奪われる。

ダッシュボードはスチール製で、ボディと同色に塗られている。大きなスピードメーターの中に、補助メーターが組み込まれている。

ベークライト製の大きなステアリングホイールを、クロームメッキ仕上げのステアリングコラムが支える。フロントガラスの上には、帽子を置くネット。ドアパネルやシートは、細かなヘリンボーン柄の生地で仕立ててある。

リアシートはなく、大きな荷物を置ける。その後ろにも荷室があるが、トランクリッドはなく、室内側からしか利用できない。

この続きは後編にて。

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