【ストレート6の味わい】BMW 635CSi ジャガーXJ-S 3.6 ビッターSC 3種のビッグクーペ 後編
公開 : 2020.12.05 18:25 更新 : 2020.12.08 00:18
乗り心地が良く走りも活発なXJ-S 3.6
リア・サスペンションは安定に優れ、テールを外に振り出すには、かなりの努力が必要。適度に軽いステアリングのロックトゥロックは3.4回転と、比較的スロー。温厚な性格が伝わってくる。
30年前より格好良く見える、ジャガーXJ-Sに乗り換える。ボンネットは巨大。ひし形のヘッドライトと、滑らかなリアピラーのバットレスがセクシーだ。容姿は、ほかのどんなクルマとも似ていない。
着座位置は6シリーズより25mmほど低い。フロントシートは、6シリーズより豪華さでは劣る。リアシートは子供向け。
きれいに維持された3.6LのAJ6エンジンを積むXJ-Sは、1978年以降に生産されたモデル。V型12気筒の、タービンのように滑らかで静かな感覚とは違う。
アルミ製ブロックのマルチバルブ・ツインカムユニットだが、BMW製6気筒のようにシルキーでもない。味わいは深く、ザラついた質感もない。5700rpmのレッドラインめがけて、激しく回り切る。
228psの最高出力は、ゲトラグ製5速MTのレシオとも相性が良い。110km/hでの巡航は2250rpm。3速に落とせば、80km/hから140kmくらいまで、勢いある追い越し加速が楽しめる。
シフトレバーのストロークは長く、ゲートを動かすと小さなノッチを感じる。正確で、必要なギアをすぐに選択できる。ビッターやBMWより、少しだけ臨戦態勢にあるようだ。
フロントスプリングのレートはやや高く、ステアリングラックも改良を受けている。足回りは軽快で、よりタイトにノーズの向きを変えていく。それでいて、乗り心地は充分に良い。V12よりわずかに硬いが、路面へ滑らかに追従し車内を平静に保つ。
エレガントさと実用性の備わる635CSi
V型12気筒から直列6気筒へ変わったことで、XJ-Sの個性も大きく変わった。良い方向で。この3.6は、筆者が今まで運転してきたXJ-Sの中でベストだと思える。レイランド時代の、5.3Lという過剰なロマンスがないだけだ。
BMWやジャガーが、自らラグジュアリーな2ドアクーペを生み出し、ブランドを世に問うていた頃に誕生したビッダーSC。ボディを組み替えた少量生産ブランドが、必要とされた時代ではなかった。
ビッダーSCは、驚くほどBMWの水準に迫っていたことは、今回の試乗で確認できた。ダッシュボードなど、一部の品質は及ばないにしても。
ハンドメイドの魅力と、信頼性の高さという珍しい組み合わせではある。しかし、BMW6シリーズにかわる珍しいモデルを探していたオーナーを、満足させることはできなかった。
635CSiの真のライバルになれたのは、メルセデス・ベンツSECだけ。1989年に製造が終了するまでに、8万6216台の6シリーズが幸せなオーナーへ嫁いでいった。白眉のビッグクーペの後継モデルを生み出す難しさを、BMWは実感することになった。
品質や仕上げ、デザインなどの面で見事なBMW 6シリーズ。一方で、技術的にはXJ-Sより保守的。期待ほど、ドライビング体験が素晴らしいわけでもない。
それでもBMW 635CSiには、成熟したエレガントさと、親しみやすい実用性が兼ね備わっている。筆者がこの3台で選ぶなら、6シリーズ一択になってしまう。