【トリノ・デザインのSタイプ】フルア・ジャガーSタイプ 1台限りのコーチビルド・クーペ 後編
公開 : 2020.12.13 16:50
Sタイプの長所を受け継ぐフルア
エンジンはパワフルでフレキシブル。滑らかな駆動系統と結びつき、乗り心地も素晴らしい。1960年代なかばに世界最高のサルーンと評された、ジャガーSタイプの長所をしっかり受け継いでいる。
同じ1966年、ジュネーブ・モーターショーには、カロッツェリアのベルトーネが手掛けた、FT Sタイプ・クーペと呼ばれるモデルも出展されていた。大きな2ドアクーペのジャガーというコンセプトは、2ドアのXJというアイデアへ変化していったようだ。
さらに同年は、ランボルギーニ・ミウラと2+2の新しいジャガーEタイプも出展された。フォーマルなスタイリングの、背の高いキャビンを備えるクーペには、期待ほどの注目は集まらなかった。
ライオンズがフルア社に何を求めていたのかは、定かではない。だが、イタリアン・カロッツェリアに少なくない関心を寄せていた。ジャガーに、4ドアサルーンとEタイプとの間を埋める、実用的な4シーター・クーペが欠けていることは知っていたのだろう。
アルファ・ロメオやランチア、フィアットなど、美しいクーペが生まれるイタリアの地。ジャガーSタイプをベースとした高価なワンオフ・クーペの姿に、ライオンズは静かに喜んでいたかもしれない。
オーダーしたフランチェスコ・レスピーノは、ハンサムなクーペを運転できることを誇りに感じていただろう。沿道の視線を受け、質問に答える時間を楽しんだだはず。彼がドライブするジャガーは、ほかに1台として存在しなかったのだから。
番外編:トリノに出展されたもう1台のクーペ
1966年のトリノ・モーターショーには、別のジャガーSタイプ・クーペも出展されていた。スタイリングを手掛けたのは、ベルトーネ社。マルチェロ・ガンディーニがデザインを手掛けるようになった、最初のプロジェクトだと考えられている。
ジャガーMk Xや420風のフロントグリルを備え、モデル名はFTと名付けられた。ジャガーのイタリア輸入業者、フェルッチオ・タルチーニに敬意を評し、イニシャルが振られている。
ノックダウン生産できるキット状態でベース車両がベルトーネへ供給され、FTモデル・シリーズをイタリアで作るという構想だった。プロジェクトのために当初7台分のベース車両が供給されているが、実際に制作されたのは1台限りだ。
このクーペは、1967年にスペインへ販売された。しばらく所在不明だったが、近年発見されている。フルア社製のSタイプとは異なり、パワーウインドウとエアコンが付いている。ダッシュボードも、新たにデザインされたものだ。
ジャガーは完成車両を自動車試験場でテストするなど、前向きに捉えていた。ベルトーネはFTクーペのデザインを、その後のフィアット125エグゼクティブやBMWスピカップ・コンセプトへと展開させている。
このSタイプ・ベースのFTクーペが誕生したのは1966年だが、公道に出られるように登録されたのは1969年になってから。ボナムズ・オークションが2014年に競売にかけるまで、直近はタルチーニ家が所有していたようだ。