【この顔、4シリーズ新型】M440i試乗 BMWという手練れが造り込む“クーペとしての華”が、見事に宿っていた

公開 : 2020.12.11 18:45  更新 : 2021.10.09 23:31

デザインを見渡して… もう1つの驚き

いずれ4シリーズという初代登場からまだ8年、G22という2世代目に進化したとはいえ、5シリーズと3シリーズというBMWの2大看板に挟まれた「ニュー・ブリード」を埋もれさせないために、強烈なヴィジュアル・アイデンティティは必要不可欠だったはずだ。

遠目に眺めてみても、M440iの獰猛な獣のように優雅で均整のとれたプロポーションは、BMWのスポーツクーペの文法に則っている。

BMW M440i xドライブ・クーペ
BMW M440i xドライブ・クーペ    池之平昌信

ちなみに個人的にフロントグリルよりずっと大事件だと思った造形は、クォーターウインドウだ。

BMWがFRである証とまでいわれた「ホフマイスター・キンク」、つまりクォーターウインドウのラインをリアエンド寄りでスナップアップ気味に跳ね上げ、Cピラーとリアフェンダー間の剛性や繋がり感を増すディティールが、アウディA5クーペ風の段付きスラントのモダン・タッチを採り入れつつ、リアフェンダーと広く長く馴染ませる目立たない処理に変わったのだ。

ハイパワーAWDのクーペとして、奥ゆかしくも相応しい進化なのか、その答えはやはり走りに委ねられる。

試乗 内装/パッケージ 実用性は?

G20世代の3シリーズのプラットフォームを用いつつ、さらなる低重心化や高剛性化を追求したシャシーは、乗降姿勢や着座位置に無理がなく、適度な囲まれ感のあるコクピットに収まればなるほどと合点がいく。

フル液晶のメーターパネルとセンターのタッチパネルの、解像度と輝度の高さが、インテリアの質感向上に強く貢献している。

新型4シリーズの前席内装
新型4シリーズの前席内装    池之平昌信

大ぶりでスポーティなシートや太いステアリング、内張りレザーの仕上げ精度も高いが、ダッシュボードの造形が3シリーズに近いことだけが惜しい。もう少し4シリーズの特別さが欲しかった。

ただし後席2座はエマージェンシー用どころか、大人2名が座れる深さと足元の広さがある。しかもシートバックを前に倒せば、トランクから段差なくフロア面が繋がり、ゴルフバッグを前後方向に押し込むにも面倒がなさそうだ。

要はこの点では、よく練られた実用的な4座クーペだ。

387psを発揮する直6のBMWツインパワー・ターボ 2997ccは、51.0kg-mという途方もないトルクによる低速域での滑らかさに加え、回転が上昇するにつれてキメ細かに弾け出すパワー感、吼えるようなエグゾーストノートで楽しませる。

過剰にして完璧な調律

8速スポーツATとアダプティブMディファンシャルの加速レスポンスは俊敏だ。

たいていの中高速コーナーを何事もなくクリアしてしまうハンドリングとアダプティブMサスペンションを通じて、箱根ターンパイクの上りでも踏み切れないほどの、底知れぬパフォーマンスの一端は垣間見えた。

新型4シリーズの後席内装
新型4シリーズの後席内装    池之平昌信

公道で解き放つには過剰な高性能だが、ハーシュネスが感じられるような乗り心地ではなく、むしろ躾けのよさや調律の繊細さ、日常での扱い易さも際立つ。

まるで昔のM3にツアラーGT的な快適さが加わったような趣で、コツや癖や無用ながらも乗り手がキレイに走らせたいと思えるような気位の高い駿馬、それがM440iといえる。

こういう美麗なパフォーマンス・クーペの審美観や精神性に、日常的に接するのが疲れてしまう、それが日本にクーペが根づきづらい要因だろうが、この日はラインナップ試乗会ということもあって、正反対の感覚のツアラーBMWにも乗ってみた。

318iツーリングだ。

記事に関わった人々

  • 南陽一浩

    Kazuhiro Nanyo

    1971年生まれ。慶応義塾大学文学部卒業。ネコ・パブリッシングを経てフリーに。2001年渡仏。ランス・シャンパーニュ・アルデンヌ大学で修士号取得。2005年パリに移る。おもに自動車やファッション/旅や食/美術関連で日仏独の雑誌に寄稿。2台のルノー5と505、エグザンティア等を乗り継ぎ、2014年に帰国。愛車はC5世代のA6。AJAJ会員。

関連テーマ

おすすめ記事

 

人気記事