【ジウジアーロでFFのロータリー】976台のマツダ・ルーチェ・ロータリークーペ R130 前編
公開 : 2021.01.02 15:05
ロータリーエンジンの技術を磨いたマツダ
続く1967年の東京モーターショーで1台のクーペ、RX-87コンセプトが発表される。後のルーチェ・ロータリークーペ、R130へと展開するモデルだ。
量産版では、フロントノーズ周りのデザインに変更が加えられ、フロントの三角窓がなくなっているが、基本的なスタイリングはコンセプトモデルとほぼ同じ。ボディサイドには、RX-87というエンブレムが付けられていた。
ルーチェ・ロータリークーペは、4ドアのルーチェとの関係性を感じ取れるスタイリングながら、設計は大きく見直されていた。センターピラーのないエレガントなルーフラインと、前寄りのキャビンによるクーペ・フォルムを実現。サイドガラスはフレームレスだった。
そして何より、車名のとおり、まったく新しいロータリーエンジンを搭載していた。サルーンのルーチェが積む、4気筒ピストンエンジンではなく。
1961年にマツダは、フェリクス・ヴァンケルが開発したロータリーエンジンの独自開発と生産を可能とする契約を、ドイツNSU社と締結。それから57年をかけて、マツダといえば小型・軽量なロータリーと考えられるほど、代表的な技術に育て上げてきた。
一方でNSU社はアウディに吸収。ロータリーエンジンは姿を消してしまった。
マツダも現在はロータリーエンジンの製造はしていないが、2018年までに約200万基をラインオフ。ピストンエンジン以外で唯一、ル・マン優勝を果たしたプロトタイプ・レーシングマシン、787Bも生み出している。
R130専用ロータリーユニットに初のFF
今でもマツダは、ロータリーエンジン技術を諦めていない。純EVのクロスオーバー、MX-30にヴァンケル・エンジンを搭載する計画だという。
少し話がずれたが、マツダR130には、ほかのロータリーエンジンを搭載したマツダ製モデルとは異なる特徴がある。それは、専用開発のA13型と呼ばれるロータリーユニットを搭載し、前輪を駆動しているところ。
R130以外のモデルに積まれるロータリーエンジンは、2代目ルーチェも含めて12A型や13B型など別ユニット。加えて、RX-8まですべてが後輪駆動となっている。マツダで唯一の、前輪駆動のロータリーエンジン車なのだ。
さらにルーチェ・ロータリークーペは、マツダ初の前輪駆動だったというのも面白い。その後に登場するFF車は、1980年の5代目ファミリアまで、しばらくの時間が空いている。
R130は、当時のマツダ車として最もボディサイズが大きく、装備も豪華。PRで用いられた「高速道路の貴公子」というワードはすぐに浸透した。洗練されたパーソナルカーとして、オールズモビル・トロネードの小さな日本版、といったところだろう。
本来なら、アメリカへ輸出されてもおかしくはない。ロータリーエンジンの燃費が悪くても、彼の地ならさほど憂慮されずに済むのだから。しかし太平洋を越えることはなく、左ハンドル車すら作られていない。
1960年代末、日本のプレミアム市場の最前線で戦いを挑むに留まった。1000台にも満たない生産台数では、開発コストの回収は難しかっただろう。