【詳細データテスト】ザ・グッドイヤー・ブリンプ 快適至極な空の旅 ファミリーカーの街乗りより静か 飛行機より船に近い乗り心地
公開 : 2020.12.19 20:25 更新 : 2021.03.05 21:27
意匠と技術 ★★★★★★★★★★
ブリンプとは、船体を気体のみで支える小型の軟式飛行船のことだ。しかし、ザ・グッドイヤー・ブリンプは、技術的にみればブリンプではない。もっとも、ブロイアーに言わせれば「ドイツには、ブリンプが何であるか知るものは誰ひとりいません」ということになる。
オリジナルのツェッペリンがそうだったように、ザ・グッドイヤー・ブリンプは硬式ふく飛行船だ。気球部分はフレーム材の周囲に膜を張っており、一般的にはガスでふくらませるのではなく、内部に気嚢を設置する構造だ。
現代のツェッペリンは、それらのハイブリッド構造だ。外套膜はエアーマットのような素材で、ヘリウムでふくらませてある。その内部には軽量アルミ素材の縦通材が走り、横方向は三角形に組んだカーボンファイバーのストラットが支えている。
機械類はただ外皮からぶら下がっているのではなく、フレームにボルト留めされている。乗用スペースもまた同様で、気球のゴンドラのようなものではない。
N07-101は全長75mで、ハードウェアの総重量は7500kg。1立方メートルのヘリウムは1kgを浮かせることができ、気球部の容積は7500立方メートルあるため、空気より軽いような状態になるわけだ。実際に空気より軽くなるわけではないが。
そうして大気中に浮くことができるツェッペリンだが、普段は300~400kg程度のバラストを積んでいる。泳いでないと沈んでしまうサメのように、飛んでいないときは着地しているのだ。
ヘリウムは浮上する量の95~97%ほどに抑えられ、飛行時には残りを空力で補う。高度を上げる際には昇降舵やノーズの上下を用い、上昇角は1~8°の範囲で調整する。
巨大なヘリウム気球の中には、空気で満たされた気嚢が前後にふたつ配置されている。これが果たす役割もふたつある。
まず、それぞれのふくらみ具合を変えることで、ヘリウムの前後配分を調整し、船体の姿勢を制御する。たとえばリアの気嚢を大きく膨らませれば、ヘリウムは前方へ押しやられ、ノーズ側が上を向くわけだ。
また、高度が上がれば気圧が下がるので、メインの気球を適切なサイズと圧力に保つためにも使われる。浮力を得るために、適量の空気を排出するのだ。
飛行機内や山の頂上でスナック菓子の袋がふくらむように、ヘリウム気球も高高度では膨張しようとする。パイロットは内部の気嚢をしぼませることで、外皮のテンションを適正化し、膨張しすぎないようにするのだ。逆に高度を下げた場合は、ヘリウム気球が収縮して浮力を失わないよう、気嚢をふたたびふくらませる。
この気球の基本的動作にさらなる操作性を加えるのが、船体後部に装備する3つの動翼だ。左右の水平ではない補助翼にはフラップが、中央の垂直尾翼にはラダーが備わる。これらは、空気の流速が20ノット(約37km/h)を超えると効果を発揮しはじめる。それ以下の速度でマニューバリングする場合は、プロペラエンジン3基の推力を調節するのだ。
3基のエンジンは軽飛行機の定番ともいえる、ライカミング製の空冷水平対向4気筒。1基あたり200psを発生し、それぞれの燃料タンクがヘリウム気球内に設置される。ヘリウムは反応性の低い貴ガスなので、タンクは必然的に難燃性となる。それぞれは連結されており、燃料はポンプによりそれぞれの間でやりくりできる。
左右に水平配置された各1基は前進用。いずれも角度が120°動かせて、プロペラは可変ピッチのブレードを備えるため、推力の方向は変化させることができる。
リアには、第3のエンジンと、同じ速度で回転するふたつのプロペラが配置される。ひとつは縦軸に置かれ、上下それぞれ90°へ向きを変えられる。もうひとつは横軸の固定式。いずれも、ブレードのピッチは可変式だ。縦プロペラは機体の上下を、横プロペラは狭い範囲での旋回を司る。
結果として、低速域でのツェッペリン は、その場に留まることも、ゆっくりと動くことも、さまざまな方向へ旋回することもできる。パイロットは、フライ・バイ・ワイアの操縦系を介してそれを操作する。
『シンプソンズ』のホーマーが飛行船を見上げて、気まぐれに空を飛んでいると歌っていたが、それも納得の動きだ。