【717C、787BからAZ-1まで】マツダ100周年 英国編集部 お気に入りモデル9台 後編
公開 : 2021.01.03 20:25
マツダ・スーツケース・カー(1991年)
Greg Macleman(グレッグ・マクレマン)
長時間の飛行機旅行。疲れた身体で入国検査をクリアし、ベルトコンベアーの周囲に群がる乗客の間から、1つのスーツケースをピックアップする。
そこから都市部へ移動するには、タクシーを捕まえるか、いつ来るかわからないシャトルバスに乗る必要がある。でもマツダの技術者は、もっと良い考えを思いついた。スーツケースに乗って、家まで帰れたら素敵じゃないか、と。
マツダは開発部門内で、誰が最も独創的な移動機械を生みだすことができるのか、社内コンペティションを実施した時があった。いくつかの素晴らしいアイデアと並んで1991年に誕生したのが、スーツケース・カーだ。
マニュアル・トランスミッションの試験研究グループの見事な作品。偉業を責めてはいけない。
7人の技術者たちは、サムソナイト製のスーツケースに、33.6ccの2ストローク・エンジンとシンプルなシャシーを結合。3輪の小さなゴーカートを生み出した。
勇気ある当時の日本のビジネスマンなら、機内荷物の受け取りエリアから空港の出口まで、1分もかからず移動できただろう。最高速度は43km/hで、2時間分の燃料タンクも備えている。
残念ながら、このプロトタイプはすぐに壊されてしまったらしい。マツダの創造力やユーモアのセンスを機能的に表現した、楽しい作品だと思うのだが、いかがだろう。
マツダ787B プロトタイプレーサー(1991年)
Jack Phillips(ジャック・フィリップス)
1991年のル・マン24時間レースが始まるまで、マツダ787Bのファンは多くなかったはず。前評判はさほど高くもなく、前年まではジャガーやポルシェ、メルセデスなどが優勝を掴んでいた。さらに、プジョーも実力をつけてサルテ・サーキットに戻ってきていた。
しかし、6月23日の夕方を迎える頃には、マツダの名声は一挙に高まっていた。2.6Lの4ローター・ロータリーエンジンは、前例のないほど甲高いサウンドを撒き散らしてサーキットを周回。着実にラップを重ね、多くのファンの予想を裏切る勝利をもぎ取った。
総合優勝を掴んだ787Bの55号車のドライバーは、スター級のジョニー・ハーバートとフォルカー・バイドラー、ベルトラン・ガショー。グリーンとオレンジのカラーリングも、忘れられないほどインパクトがあった。
当時のレギュレーションは複雑で、多くのライバルがリタイアするなど、いくつかの好条件が重なったこともマツダ優勝の理由の1つではある。その30年後には、トヨタも似た条件でル・マン優勝を果たしている。