【メルセデスSLを夢見て】キャデラック・アランテ イタリアからボディを空輸 前編
公開 : 2021.01.09 07:25
シャシーはエルドラドがベース
少なくない失敗事例と、大西洋という障害が立ちはだかっていたが、キャデラックは高級2シーターの生産に踏み切る。クラスを牽引していた、メルセデス・ベンツ560SLに対抗するため、構想は1982年から練られていた。
ビッグ3の1社とピニンファリーナ社とのモデル開発は、依頼する側、される側以上の関係性で進められた。ピニンファリーナ社がディレクションに深く関わり、GMのチーフデザイナー、デイビット・ヒルは毎月1週間はトリノに滞在するほど。
キャデラックがアランテの開発をスタートさせた当初、ライバルと同じフロントエンジン・リアドライブのパッケージで検討されていた。だがピニンファリーナ社は、降雪地でのフロントドライブの有利性を強調。考えを改めさせた。
加えて、FFのレイアウトがもたらす、スタイリング上の可能性も狙っていた。そこで選ばれたプラットフォームは、当時のエルドラドも採用していたE/Kシャシー。試作車のために、フロアパンとエンジン系統がトリノへ運ばれると、215mm短縮された。
サスペンション回りも、エルドラドがベース。フロントがコイルスプリング、リアがコルベットのような1枚の大きなリーフスプリングという構成になっていた。ハードウェアの多くは既存部品の流用だったが、いくつもの改良は施されていた。
ダンパーは、内部抵抗を調整するディスクが付いた専用品。ボッシュ製のアンチロック・ブレーキ・システムを搭載するため、ハブ回りも手が加えられている。
4.1L V8は最高出力172ps、最大トルク31.7kg-m
ボディデザインは、従来のキャデラック・テイストから大きな進化を遂げていた。ボンネットとハードトップ、トランクリッド以外は、当時の西ドイツ製となる二重亜鉛メッキ鋼。ピニンファリーナ社は、アルミニウム材を使用してボディパネルを生産した。
エンジンはいくつかの選択肢があったものの、アルミブロックにアイアンヘッドが組み合わされた、4.1L V型8気筒をチョイス。ハイ・テクノロジー「HT4100」と呼称の付いたユニットで、いくつかの改良が加えられている。
シーケンシャル・マルチポート燃料噴射にハイフロー・インテークポート、低抵抗ピストンを採用。冷却フィンの付いた大容量のオイルパンも特徴だ。
メルセデス・ベンツSLのように、マニュアル・トランスミッションの設定はない。出力が高められたエンジンに対応するよう、THM440式と呼ばれる4速ATを強化して組み合わせた。
2速から3速、4速へのシフトアップは、コンピューターで制御。点火時期を調整し、トルクを弱めることで変速ショックを少なくし、ATの寿命も延ばしている。
そうはいっても、最高出力172psで、最大トルクは31.7kg-m。0-100km/h加速10秒以下、最高速度201km/hを実現してはいたが、メルセデス・ベンツを脅かすほどではなかった。
キャデラックが設定したベンチマーク、560SLの約8秒と225km/hにはまったく届いていない。
この続きは後編にて。