【EVの敵はハイブリッド?】そもそも「EV一択」疑問 HVで技術を磨き、二次電池コスト次第で本腰を

公開 : 2021.01.06 08:25  更新 : 2021.10.09 23:41

なぜ日本ではEVが普及しないのでしょうか。敵は意外なところに存在するのかもしれません。日本のお家芸のハイブリッド車との関係性から、EVの未来を考えます。

ガソリン車禁止の報道にEV一択の意見

text:Kenichi Suzuki(鈴木ケンイチ)
editor:Taro Ueno(上野太朗)

2020年の年末になって話題を集めたのが政府による「2030年ガソリン車禁止」の報道だ。これは正確には、2030年代までに電動化されていないガソリン・エンジン車の販売を禁止するという内容で、決定事項ではなく、そのようなことが話し合われているという程度だ。

重要なのは、電動化されたクルマとはEV(電気自動車)だけでなく、ハイブリッド車も含むこと。当然、ハイブリッド車にはエンジンが搭載されている。つまり、ハイブリッド車の割合が高ければ、その分だけエンジンの生産も継続される。

三菱エクリプス・クロス
三菱エクリプス・クロス

そして、現状では、純粋なエンジン車の割合は6割を切っている。10年という年月を考えれば、それほど難しい目標でもないだろう。ちなみに、これまでは電動車100%の目標は2050年とされていた。それが前倒しされたというわけだ。

しかし、こうした報道に合わせて、別の意見が散見するようになった。それは「ハイブリッド車もやめてEVに集中すべきである」というものだ。

これは欧州や中国の自動車メーカーの多くがEVに力を入れているという現状を鑑みて、「ハイブリッド車をやっているのは日本だけ。ガラケーのようにガラパゴスになるとまずい。日本もEVに力を入れないと敗北する」という危機感があるのだろう。なんとなくではあるが、「EV」VS「ハイブリッド車」というような構図が見え隠れするようになっているのだ。

目的と手段が逆?

しかし、間違ってはいけないのは、目的が先にあることだ。

「2030年ガソリン車禁止」という話は、「2050年カーボンニュートラル」という目標に向けて出てきたもの。「2050年カーボンニュートラル」は、気候変動問題への対応のため、CO2排出を減らしていき、2050年にはゼロにしようという政府が掲げた目標だ。つまり、今後30年をかけてCO2排出を減らし、2050年にゼロにするというロードマップである。

メルセデス・ベンツEQC
メルセデス・ベンツEQC    メルセデス・ベンツ

本来の目的はCO2削減、つまりクルマの燃費性能の向上である。そして、EVは、そうした目標を達成するための手段のひとつにすぎない。

実際に、カーボンニュートラルを実現するクルマとしては、他にFCV(燃料電池車)もあるし、水素と二酸化炭素でつくるeヒューエル(合成燃料)もある。水素をそのまま燃料として燃焼させる水素エンジンという存在もある。EVだけではないのだ。

また、明日からCO2排出をゼロにするわけではなく、徐々に減らしていこうというのが、現実的な方策となる。そこで重要となるのが、ハイブリッド車であることは間違いない。

欧州や中国で、ハイブリッド車を飛び越してEVにシフトしたのは、乱暴に言ってしまえば「優れたハイブリッド技術を持っていない」からだ。

欧州で2021年より導入されるCAFE規制の基準は、1kmあたりのCO2排出量は95g。これは日本風に言えば24.4km/lの燃費性能をクリアする必要がある。この数値は、日本のプリウスなどのハイブリッド車であれば、軽々とクリアできる。

ところが、欧州や中国メーカーには、それをクリアすることができていない。だからこそ、今からハイブリッド技術を磨くのではなくEVに飛びついたのだ。

つまり、「カーボンニュートラル」という目標があって、それに向かうための手段が「EV」であり「ハイブリッド車」だ。「EV」はゴールかもしれないが、その途上に「ハイブリッド車」は欠かせない存在と言えるだろう。

記事に関わった人々

  • 鈴木ケンイチ

    Kenichi Suzuki

    1966年生まれ。中学時代は自転車、学生時代はオートバイにのめり込み、アルバイトはバイク便。一般誌/音楽誌でライターになった後も、やはり乗り物好きの本性は変わらず、気づけば自動車関連の仕事が中心に。30代はサーキット走行にのめり込み、ワンメイクレースにも参戦。愛車はマツダ・ロードスター。今の趣味はロードバイクと楽器演奏(ベース)。

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