【売れないクルマを作る訳】なぜトヨタは燃料電池車のミライを作るのか? ビジネスとして成立する理由とは

公開 : 2020.12.26 08:25  更新 : 2021.10.09 23:42

水素の使い方とは?

具体的に水素をどのように使うのかといえば、モビリティの燃料として、そして、再生可能エネルギーの調整用、さらには産業用や施設用が期待されている。

モビリティの燃料として水素は、ミライのような乗用車だけでなくバス、トラック、フォークリフトなどに利用が可能だ。水素は、エネルギー密度が高いため、モビリティに使えば航続距離を長くすることができる。また、電池の充電よりも水素の充填の方がスピーディなため、世界市場では、屋内使用などのフォークリフトにFCスタックを利用することが広まっている。もう実用化が進んでいるのだ。

トヨタ・ミライ(先代)
トヨタ・ミライ(先代)    トヨタ

また、ガスから水素を取り出して、発電と給湯を行う家庭用のエネファームもFCスタックの一種。こちらはすでに、国内の家庭に向けて30万台以上が販売されている。家庭用FCスタックの普及は日本が世界をリードしているといえるだろう。

近年、太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーが増えているが、そのデメリットも問題視されている。それが発電の不安定さだ。太陽光も風力も計画的で一定な発電が苦手だ。

しかし、その調整弁として水素を利用するというアイデアがある。必要以上に発電したときは、水素を作って溜めておくのだ。また、火力発電などの従来の発電でも、需要を上回るときがある。そうしたときにも水素として溜めておけば、効率的な利用が可能となる。膨大な電力となる系統電源に対応するには、蓄電池では力不足。ところが水素ならば、いくらでも作り置きが可能。日本の電力需給にも水素は大きな貢献が期待されているのだ。

さらに水素は燃やすと、非常に高温になる。製鉄など、これまで化石燃料を使っていた産業に水素の熱エネルギーを使えば、CO2排出量の激減も可能となる。

また、CO2と水素から「eフューエル」という液体燃料を作る方法の開発も進められている。この技術が確立できれば、従来の内燃機関のエンジンがそのまま継続利用することも可能。新たな技術として注目を集めるものだ。

メリットばかりではない?

「水素社会」が実現すれば、未来はまさに夢のように素晴らしいものとなる。しかし、その実現には、まだまだ課題が山積みだ。

モビリティとして利用するにあたっての最大の問題は、プラチナを使うFCスタックの高額さだ。かつてのFCスタックの価格は、ひとつ1億円と言われていた。それが6年前の初代ミライの誕生時には、20分の1、つまり500万円までコストダウンしたと言われた。

トヨタ・プリウス
トヨタ・プリウス    トヨタ

さらに2代目ミライでもコストダウンは進んだであろう。しかし、新型ミライの価格も700~800万円。まだまだFCスタックの価格は数百万円という見積もりだ。

ちなみに経産省が2019年に発表した「水素・燃料電池戦略ロードマップ」では、「2025年にハイブリッドカーとの価格差はプラス70万円」とある。つまり、プリウスのクラスであれば、300万円台前半となる。具体的には、次の第3世代のミライが、現状の半額程度になるのが目標ということだ。確かにそれくらいになれば、普通の人にも手が届く価格となる。その2025年でFCVの普及が20万台。2030年には80万台の普及を目指すという。

それ以外にも「水素社会」の実現には、水素の供給体制を整える必要がある。水素をどうやって安く作るのか。そして、どうやって供給するのかということだ。そのため、オーストラリア政府と褐炭ガス化のプロジェクトなど、数多くの施策がスタートしている。

ただし、こうした施策の多くは、まだ始まったばかりのものばかり。「水素社会」が身近に感じられるのは、まだまだ先のこと。いつか来る未来として、楽しみに待つことにしよう。

記事に関わった人々

  • 鈴木ケンイチ

    Kenichi Suzuki

    1966年生まれ。中学時代は自転車、学生時代はオートバイにのめり込み、アルバイトはバイク便。一般誌/音楽誌でライターになった後も、やはり乗り物好きの本性は変わらず、気づけば自動車関連の仕事が中心に。30代はサーキット走行にのめり込み、ワンメイクレースにも参戦。愛車はマツダ・ロードスター。今の趣味はロードバイクと楽器演奏(ベース)。

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