【誕生から60年】ジャガーEタイプ シリーズ1とシリーズ3を比較 3.8L直6x5.3L V12 後編
公開 : 2021.01.23 18:25 更新 : 2022.08.08 07:34
1961年、世界中へ衝撃を与えた1台のスポーツカーが誕生しました。美しいボディに包まれた、ジャガーEタイプです。2021年に60周年を迎える直6のシリーズ1と、最後を飾ったV12のシリーズ3の2台をご紹介しましょう。
2台の個性の違いに改めて驚かされる
ジャガーEタイプの車内は、一度慣れてしまえば、平均的な身長のドライバーなら居心地が良い。シリーズ3のステアリング・コラムは位置調整が可能で、シートの前後スライド量も初代よりは大きい。ダッシュボードの下部が、膝に当たるということもない。
小径のステアリングホイールの奥に見やすいメーターと、当時らしいスイッチが並んでいる。シリーズ3の方が人間工学的には正しい。
2台のEタイプを乗り比べてみると、その個性の違いに改めて驚かされる。シリーズ1のエンジンは、プッシュボタンを押せば目を覚ます。乾いたエグゾーストノートが響くが、下品なほどうるさくはない。
中程度の重さのクラッチを踏み、1速へ入れる。滑らかに、味わい深く加速していく。アクセルレスポンスは鋭く、想像より踏みごたえは軽い。モス社製のトランスミッションも、シフトアップ時は素晴らしい。
慣れの問題だが、シフトダウンは一癖ある。積極的な変速はお好みではなく、感触も良くはない。低い段数で聞こえるギアのノイズに、思わず笑顔になる。
0-97km/h加速を6.8秒でこなすことに、評論家のジョン・ボルスターはオートスポーツ誌でこう記している。「信じられないほどに、お見事。一般道で飛ばしたら、233km/h以上に届きました」。1960年代の英国だから、許してほしい。
現代の指標でも、シリーズ1のEタイプはその気になれば充分に速い。アナログなステアリングは重み付けがほど良く、感触も豊かで、反応も正確。操る喜びとは、このことだ。
不気味に思えるほど静かなV型12気筒
コーナリング中でもコミュニケーション力豊かで、機敏にボディの向きを変えられる。チャレンジングなカーブの連続でも、アクセル操作で姿勢制御も可能。エイペックスを縫うように鋭く走る。
ただし、ブレーキには一抹の不安が残る。四輪ともにディスクで、リア側はオンボード・レイアウトだ。効かなくはないが、高速域ではあまり宛てにしない方が良い。連続して2回は厳しいだろう。
初期のEタイプは、ペースを上げると少し落ち着きがないように感じられる。それでも、同時期のビンテージ・モデルよりは扱いやすい。先を見越して運転していれば良い。
タイヤは細くフロントのトレッドも狭いが、見た目以上にグリップに優れ、引き締まり安定している。同時代のクルマの多くは、独立シャシーにビームアクスルという組み合わせだった。
高ぶった気持ちのまま、若いシリーズ3のEタイプへ乗り換える。エンジンを始動するが、ショートストロークのV型12気筒は不気味に思えるほど静か。軽いフライホイールが回転する音が聞こえる。
シフトレバーを動かし、心地良い重みのクラッチから足を放す。シリーズ3は、目立った音も立てずに発進する。スピードメーターを見ると、想像していたよりスピードが出ていて驚かされる。
高速船と呼ぶほどではない。ドラマチックさは薄い。第一印象が薄まることはなく、むしろどんどん濃くなっていく。