【ジュニア・グランドツアラー】トヨタGRスープラ(最終回)長期テスト 小さなフェラーリ812
公開 : 2021.01.16 11:45 更新 : 2021.07.12 18:56
エンジンとシャシーとのバランス
エンジンは、上質な直列6気筒が載っている。デザインも見事。GRスープラが素晴らしいと、いわずにはいられない。筆者が改めたいと感じた部分は、運転の操作系くらい。
基本的な人間工学は優秀。足元は広く、ステアリングホイールは充分に手元へ近づけられる。しかし、シートはBMW M2やポルシェ718ケイマンほど、優れたホールディング性を備えていない。
ステアリングホイールに取り付けられたパドルは、大きさが良くない。9時と3時の位置のスポークは握りにくい。プレミアム・ブランドのスポーツモデルほど、シリアスではなかった。
小さな欠点でも、スポーツカーの魅力を薄めることにつながってしまう。煮詰めきれていない、おもちゃっぽさを生んでしまう。
それは、ドライビング体験にもつながっていた。BMWの直列6気筒B58ユニットは、音も見事で滑らかに回転し、トルクも豊か。魅力的なエンジンだ。GRスープラのシャシー・エンジニアは、このユニットをどこまで理解していたのだろう。
ステアリングのレスポンスは、緩めにロールが生じるシャシーに対し、少し熱心すぎる。直列6気筒の重量がフロントに載り、シャープでタイトなターンインが得られていない。特にポルシェ718ケイマンと比べると、大きく劣る。
4気筒のジャガーFタイプとも比べてみた。短時間ではあったが、FタイプはGRスープラの穏やかなアンダーステア・バランスと、わずかな不安定さをあぶり出した。
GRスープラはとても速い。だが、どこか鮮明さに欠ける。トラクションの制限もあるようだった。
小さなフェラーリ812スーパーファスト
定期的な整備間隔を、トヨタは16000km毎と指定しているが、今回のテストで重ねた距離は8800kmほど。整備が必要になるまでは走れていない。エンジンオイルの使用量は少ないし、コストはさほどかからないだろう。
ミシュラン・パイロット・スーパースポーツは、2mmも減っていない。これまで派手なバーンアウトも何度かしているのに。
燃費は平均で11.3km/L前後。高速道路を長距離巡航させれば、13.5km/Lに迫るほど伸びた。筆者の尺度的には、充分に良い数字だ。
GRスープラのストロングポイントを実感できたのが、2度走った長距離ドライブ。英国からドイツとイタリアへ向かった。日常的な利用を妨げる要素はないうえ、長距離移動を苦もなくこなすことができる。
サスペンションのスプリングは比較的柔らかく、このクラスのどんなモデルより乗り心地はしなやか。大人2人、10日分の荷物を問題なく積める大きな荷室も付いている。ミドシップのライバルモデルでは叶えられない機能性だろう。
荷室と車内とが続いているから、ロードノイズを荷物が拾い、振動することはある。でも、グランドツアラーとしてトヨタGRスープラを選びたくなる特徴だといえる。
まるで小さなフェラーリ812スーパーファストのように乗れる。しかも駐車する場所の心配は、フェラーリほど必要ない。