【W123型 230 TE】メルセデス・ベンツ初のステーションワゴン 英国導入を決めた男 後編
公開 : 2021.01.31 18:25
メルセデス・ベンツ初のステーションワゴンに、右ハンドルを設定させた人物の1人、ジョナサン。素晴らしい状態の230 TEとともに、当時を振り返ります。
英国で渇望されていたステーションワゴン
メルセデス・ベンツのW123に、ステーションワゴンの追加が決まる。「右ハンドル車が必要か、工場から確認がありました。簡単に売れると考えましたが、上司のマネージング・ディレクターの答えは、必要ないでした」。と振り返るジョナサン・アッシュマン。
「ドイツの人で、ステーションワゴンに乗るのは、長い荷物を積む職人だけだと考えていたようです。英国でのメルセデス・ベンツのイメージを下げることにつながると。英国としては欲しいと夢見ていたクルマでしたから、納得できませんよね」
最終的に、市場調査報告での結果で判断されることになる。「素晴らしい決定でした。調査では、高級エステートという市場が存在することがわかったんです」。その結果をもとに上司へ直訴。W123の右ハンドル・ステーションワゴンの導入が決定した。
アッシュマンが続ける。「サルーンを超えるプレミアムモデルとして、モデルラインと価格を決める必要がありました。取締役会では、240 TDと250 T、280 TEの3グレードと価格が承認。しかし200 Tは装備が見直され、価格が大幅に引き下げられました」
結果として、英国はステーションワゴンの最大市場の1つになった。「生産台数は当初から少なく、数を大きく変えることは難しい。英国での需要は大きく、他の右ハンドル市場からクルマを回してもらうこともありました」
全体では、ボルボやシトロエン、プジョーといったメーカのステーションワゴンより、20%から65%高い価格で英国では販売された。その中で200 Tは安価な目玉商品。2.8Lのフォード・グラナダGL V6と同程度の金額で買えた。
Gクラスの英国導入も先導
当時の量産ステーションワゴンで最速の地位を掴んでいたのが、280 TE。最高速度194km/hが与えられ、多くの英国市民の支持を集めた。価格は200 Tの2倍近かったにも関わらず。
「200 Tはベーシックな仕様な一方で、280 TEは価格が高く、上司が売れるか心配していたことを覚えています。しかし、その市場の人々はフル装備のクルマを選び、英国では高い金額を支払うこともいといません」
「オプションを省いて、3000ポンド安く売る必要はないんです。後日、当時の30%のユーザーが、わたしが当初標準装備に提案したオプションを選んでいたこともわかりました」
アッシュマンは、1984年までメルセデス・ベンツでマーケティング業務を務めた。Gクラス、ゲレンデを英国へ導入したのも彼だ。「オーストリアでGクラスを試乗しました。280 GEを試算すると、レンジローバーの約2倍の金額になり驚きましたよ」
初のGクラス英国導入に当たり、アッシュマンはランドローバーとレンジローバー、ランドクルーザーを手配し、ディーラーの営業マンをオフロード走行の研修へ向かわせた。「オフロードコースは、どんなクルマでもクリアが難しいものでした」
「一番長い距離を走れたのが、ゲレンデヴァーゲンでした。ここまで売れるとは、夢にも思いませんでした」
1984年、メルセデス・ベンツは英国事業の方針を転換する。それに同調できなかったアッシュマンは、1984年からトヨタのセールスディレクターに就任。さらにルノーの経営へ関わろうとしていた矢先、RACのモータースポーツ部門の責任者へ選ばれる。