【ラリー・モンテカルロ優勝】1931年インヴィクタSタイプ 時価2億8000万円 後編
公開 : 2021.02.06 18:25 更新 : 2022.11.01 08:55
現在の取引価格は、2億8000万円に迫る
スカットルへの補強は充分で、余計な振動はほとんどない。車重は1400kgほどあるが、エンジンはツインプラグを備え、簡単に100km/hまで加速できる。
着座位置は当時のライバルより低く、ビンテージ感は薄い。同時期のベントレー・スピード6より速く感じる。ロッド制御のドラムブレーキが、インヴィクタの速度を力強く受け止める。ペダルの感触も充分に良い。
Sタイプの売りとなっていた機能の1つが、125mmほどの調整幅があるペダル位置。裕福なドライバーの様々な体格に、対応できるようになっていた。当時のライバルより、明らかに扱いやすい。驚くほどに。
長く伸びるボンネットに反射する太陽の光。排気ガスと温められたエンジンオイルの匂い。暖かい陽気の中では、雪に覆われた真冬の道で、このSタイプがストレートを疾走していた姿を想像することは難しい。
筆者が何かのきっかけで大金を手に入れたのなら、1931年のようなファブリック・ボディに戻すだろう。冷却口を復活させ、巨大なヘッドライトを取り付け、ゼッケン128が振られたラリー・モンテカルロのプレートを付ける。
そしてノルウェーのスタバンゲルまでSタイプを送り、栄光のルートをリビエラまでなぞると思う。90年前の偉業を称えるように。もちろん筆者は、ドナルドのように凍った湖でドライビングスキルを磨くことはしないけれど。
インヴィクタSタイプの現在の取引価格は、200万ポンド(2億8000万円)に迫るという。この体験を、強く脳裏に焼き付けておきたいと思った。