フェラーリ458

公開 : 2014.01.05 15:51  更新 : 2017.05.29 18:53

イントロダクション

フェラーリ伝統のV8ミッドシップ・レイアウトは、1973年に誕生したディーノ308GT4 2+2とともに始まった。そのエッセンスは引き継がれ、1994年に発表されたエレガントなF355は、2シーター・ベビーフェラーリのベストと言われる忘れられないモデルとなった。

1999年に3.5ℓエンジンのF355が生産を終えると、その後マラネロからは360モデナF430という2つの世代が送り出された。こうした流れをくむV8ミッドシップ・フェラーリの最新作が、フェラーリ458イタリアである。

ジュニア・フェラーリと口にする時は、わずかなさげすみを常に含んでいる。しかし、少しばかりの目だった例外を除いて、マラネロのV8ミッドシップ・ロードカーというのはこの愛称で親しまれてきたのだ。

308GTBがその扉を開き、ジュニアと呼ばれる一連のV8シリーズが形成された。ところが、今やフェラーリの中でも状況が変化してきている。跳ね馬をリラックスして楽しみたいという購買層を対象に、現行フェラーリで4番目のモデル・レンジとなるカリフォルニアが登場したのである。

これが後押しとなり、新型のV8モデルである458イタリアは、これまでのモデルよりハードな領域に立ち入ることが許されたのだ。その最高出力は570ps、最高速度が325km/h。これではもはやジュニアとは呼べないのである。

458は、V12の先代モデル599GTBを96-160km/hの中間加速タイムで凌ぐだけでなく、パフォーマンスやラグジュアリー性を高める魅力的なオプションを追加していくと、ゆうに£20万(約3,000万円)を超えてしまうのだ。

458スパイダー(オープン仕様を表す名称。イタリアと付かないことに注意)ともなるとさらにその現実味が増し、オプション・リストに目を通さずともベース価格が£20万(約3,000万円)を伺おうという水準なのだ。

だが数字は数字に過ぎない。われわれが今回確認したいのは、この最新型のジュニアが単にライバルたちを凌ぐ実力を持つだけでなく、フェラーリV8の頂点をなす名作になり得るかどうかなのである。

デザイン

まじまじと458イタリアを見つめて、当然ながら主観的な意見になるが、われわれのメンバー内では一つの共通認識に達することができた。このデザインは、型破りなフェラーリへの回帰であると。

目立ったエアロ・デバイスが付かず平滑なアンダーカバーを持つ458だが、F430を上回る最大360kgのダウンフォースを発生し、さらに空力の面でもF430より優れているという。

スタイリング上の大きな変更点の一つが、エンジンルーム冷却用のエア・インテークである。先代までは後方寄りの両側面にあったものがアンダーカバーへと移動し、全体的な空力とディフューザーの働きを改善している。

360とF430ではショルダーライン上にエア・インテークを配置していたが、458ではウィンドウラインに溶け込む三角形タイプへと変更されている。先代よりもこの方がずっとスマートな仕上がりだ。有効的に形成されるエアロダイナミクスさえ、このクルマの美しさを損なわないよう配慮されるのだ。例えばブレーキ冷却用の空気は、ヘッドライト脇の独特なインテークから取り込む設計になっている。そして、冷却に利用された空気は、フロントホイールアーチ周辺のリフトを抑制する目的で、今度は反対側の通気孔から排出されるのだ。

さらにフロントには空力で弾性変形するウィングレットが存在する。低速走行時はラジエーター冷却に十分な風を導く角度になっており、高速走行時は空気抵抗を減らすよう変形する。このウィングはまた、ダウンフォースの発生にも貢献している。

フェラーリが言うにはボディ最後部の控えめなリップにより十分なダウンフォースが発生するので、可動式ウィングは不要だったという。われわれのテストを通してもこの点に疑問を抱く必要は見当たらなかった。

458の全体的なデザインにはエンツォのモチーフが見え隠れする。とりわけ、リア・ランプの形状と配置は、エンツォでは片側2灯タイプだったとはいえ、よく似た構成にまとめられている。その下の通気孔は、ギアボックスとクラッチを冷却するために使用される。

先ほども言ったとおり、間違いなく458スパイダーはさらに野心的な造りになっている。アルミニウム製のルーフは、430のファブリック製に比べ25kgの軽量化に成功し、開くのに掛かる時間は14秒となった。強度という点でも、イタリアからガラス製エンジン・カバーを省くことになるのだから、コンバーチブルのフェラーリが妥協の産物ということはもはやないのである。

インテリア

F430から降りて458イタリアに乗り換えると、1世代ではなくあたかも2世代新しくなったように感じてしまう。458のインテリアはあらゆる点がモダーンになり、先代F430には見られなかった職人による作り込みが感じられるのだ。ダッシュボード周りは、観念的な佇まいのエアー・ベントがせり出していてドライバーを取り囲む造りになっている。スイッチ類の多くはステアリング上か、ハンドルの右側に配置されており、ドライバー優先の配置になっている。

ウィンカーやワイパー、ライトというステアリング上のスイッチは、操作に慣れが必要だが実際にはとても使いやすく配置されている。コーナリング時に指が届かないボタンがあるのだが、458のステアリング特性を考えれば手を持ち替えることもなく、問題にはならないだろう。

視界は実のところそれほど良くはない。前方視界は良好だが、合流地点などの斜め後方の視界は少々心もとない。ラゲッジ・スペースはそれほど悪くなく、シート後方に多少の荷物置き場と、幅は狭いが深さのあるトランクをフロントに備えている。

今回のテストカーはカーボンファイバー・レーシング・シートを備えていた。これはどんな基準で見ても値の張る一品と言える。座面のハイト調整が備わらないことを除けば、文句のつけようがないものだった。

多用なパーソナライゼーション・プログラムが揃えられているので、458イタリアの内装の出来は、オーナーのセンス次第と言えよう。素材と色、それにステッチの太さまでが選択できる。そうは言っても、標準装備はもう少し行き届いていて欲しかった。この価格帯のクルマならGPSナビゲーションは標準で装備すべきものであろう。

パフォーマンス

最新のスーパーカーに求められる性能を頭に浮かべて欲しい。驚くことにリストに並ぶ指標のほとんどがフェラーリ458イタリアには備わっているのだ。

0-97km/hは3秒台に収まり、最高速度は200マイル(325km/h)を超え、0-160km/hタイムは7秒前後、0-400mは易々と12秒を切る。0-1000mの通過時速度は241.5km/hだ。

こうした記録よりもさらに印象的なのが、458が実力を発揮するときの振る舞いだ。それほど昔ではないが、4.5ℓの自然吸気エンジンから570psを、つまり1リッターあたり127ps/ℓを引き出すというのは、轟音を放つ運転しづらいパワープラントがエグゾーストから炎を放つだけだった。さらにその少し前などは、ロードカーでそんな馬力を発するクルマが一台も存在しなかったのだ。

458のエンジンが苦もなく目を覚まし、3000rpmという低回転域で先代F430の最大トルクに達し、さらには9000rpmまで吹け上がることができるのは、生産性や素材品質、燃料噴射、電子制御技術の進歩の証なのである。そして最も注目に値するのが458のエンジン回転の鋭い切れである。息切れすることもなければ、伸びが鈍ることもない。スロットルを踏み込むだけで、エンジンは狙い通りに素直に加速していく。

カリフォルニアと同様に、458の駆動力はDCTを経由して後輪に伝えられる。われわれのメンバーには居なかったが、中にはシングル・クラッチ・セミオートマのスリル感が薄れたと言う人もいるようだ。しかし、458のDCTは、メカニカルな味わいとスムーズなギアの変速を両立している優れものなのである。

フェラーリの現行モデルと同様に、このクルマにはカーボン・セラミック・ブレーキが標準装備されている。このブレーキは、初期制動、耐フェード性、高速域からの制動力、すべてに優れている。

乗り心地とハンドリング

458イタリアが登場する前は、市販されているミッドシップ車の中でベストハンドリング・カーと言えば、ロータス・エヴォラとノーブルM600の2台であった。

このフェラーリはそれを凌ぐまでに至ってはいないが、難なく仲間入りを果たす実力がある。それだけでなく、458だけが可能なことがいくつかあり、それがこのクルマを一層引き立たてている。

まず第一に、458はノーブルより走りが安定している。アジャスタブル・ダンパーのセッティングは、当然ではあるのだが、ノーマルと不整路向けのソフトの2種類どちらを選択していても、安定しているのだ。

セッティングに関わらず、458はスーパーカーの割にはしなやかな乗り心地で、ロック・トゥ・ロックが2.0回転のステアリングは切れと軽さがあり、操作をすれば優れた回頭性をすぐに感じるのだ。直進付近で神経質な動きをすることもない。

次に、車重が上回るにもかかわらず458の回頭性というのは、M600とエヴォーラ、さらには他のライバルと比べても優れているようだ。軽快すぎるステアリングは、ロータスやノーブル、あるいはポルシェ911GT3で味わえるみっちりした操作感が感じられないが、路面からのフィーリングは豊富に伝わってくる。

一般的な道路状況でわきまえたスピードで走っていても、十分に楽しめるのがこのクルマの特徴だ。ポテンシャルを最大限に引き出さずとも、かなり速く走ってくれるのが458の能力であり、出力が優るにもかかわらず、ポルシェのGT系モデルやレクサスLF-A、ノーブルM600とはその点が異なるのだ。

つまり控えめな走りでも、458の楽しさは実感することができる。そのうえ限界付近でも、われわれがV8ミッドシップ・フェラーリに期待してきた安定感かそれ以上のものを兼ね備えているのだ。これを上回るライバルというのはほとんど居ないだろう。

過激さはわずかに弱まるが、こうした長所は458スパイダーについても当てはまる。イタリアよりもスパイダーではダンパーをわずかにソフト寄りの設定に変更しているが、サスペンションに関してそれ以外の変更はない。荒れた路面を走るとボディシェルを通じてかすかな振動が伝わるが、車体自体はまったく強固なものである。

ランニング・コスト

フェラーリを安いからと言って買う人はいないだろう。その点は458も全く同じである。

標準価格は2,830万円、オプションを追加すると£20万(約3,000万円)前後になるが、この価格設定は理にかなったものだ。

ずらりと並んだオプション・リストを見て考えるのは、それ自体が魅力的な体験となる。26種類の標準ボディ・カラーに加えてパーソナライゼーション・プログラムが用意されており、心のおもむくままに多様なカラー・オプションを選ぶことができる。もちろん有料ではあるが。

それだけではない。ホイールが4種類、ブレーキキャリパーの色が5種類、内装はレザーとステッチ、それにカーボン・パーツの無限とも思える組み合わせ、様々なシートや車内とトランクのカーペット、さらには回転計の色まで4種類準備されているのだ。

豊富なオプション・リストからも想像できるように、標準装備には物足りない点がある。GPSナビゲーションとiPodの接続デバイスにさえ追加の支払いが生じる。この二つは標準で装備されるべきものだ。

フェラーリの公式アナウンスによると燃料消費率は7.4km/ℓだが、実際にこの値を記録できる人は相当な幸運の持ち主だ。CO2排出量は予想通りに307g/kmという高い数値である。

リセールバリューは高値に安定するだろう。購入希望者が減ることもないし、フェラーリの純正メンテナンス・プログラムは定期点検費用を信じられないことに7年間補償するので、フェラーリの維持費を極めてリーズナブルな水準に抑えるだろう。

さらには、4年間、走行距離無制限の保証が付く。これはライバル車では3年間だけの保障である。

同クラスのライバルの維持費が、ひどく高いとまではいはないが、それほど優れていないことを考えると、フェラーリ458にどう考えても分がある。

結論

ロードカーの製造において、このところのフェラーリは上り調子である。美しくて魅力に富んだ599GTOと天秤にかけても、458イタリアはフェラーリの新しい地平を切り開いたと言える。

これは、458が優れた走りの質と素晴らしい扱いやすさを備えるためだけではない。3割ほどの力で田舎道を駆け抜けたり、全速力でお気に入りのサーキットを走り回ったり、どちらのシチュエーションでもクルマと対話ができるのだ。ハイテクを駆使しながらも、これだけ深いドライビング・プレジャーを味わえるモデルがあるだろうか。

われわれがこれまでテストした中のベストハンドリング・カー、とりわけロータス・エヴォラとノーブルM600に引けを取らないコーナリング性能も併せ持っている。一方でパフォーマンスは、近年の超高級、超高価格のスーパーカーなら匹敵するレベルにあり、それどころか数多くの項目では上回っているのだ。

インテリアはこれまでになく実用性を増し、より心を引きつけるものとなった。とりわけ質感の向上が目を引く。そして、458の速さの真骨頂と同じくらい印象的だったのが、現実的な速度域での平然としたふるまいだ。これは熱い走りをする、非常に快適なクルマなのである。カタログを飾る数字からは想像しようもないことだ。

残念なのは、いつの間にか価格が宝くじを当てないと買えないレベルになったことだ。しかし458の真価を考えれば、F430からの割増し分は正当化できる。今やジュニア・フェラーリは紛れもない完全なスーパーカーなのである。

フェラーリ458

価格 2,830万円
最高速度 325km/h
0-100km/h加速 3.4秒
燃費 8.5km/ℓ
CO2排出量 275g/km
乾燥重量 1380kg
エンジン V型8気筒4497cc
最高出力 570ps/9000rpm
最大トルク 55.0kg-m/6000rpm
ギアボックス 7速デュアル・クラッチ

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