【プラモデルの箱絵】手描きにこだわる理由 実際に戦車に乗ることも
公開 : 2021.01.24 05:45 更新 : 2022.03.25 18:50
戦車を描くために戦車に乗る
ーーそのテクニックはどこで?
「独学ですよ。学校や美大ではまったく教えてくれないですね。わたしは子どものころから少年雑誌を見ていて、そこに21世紀のクルマとか載っていたんですよ」
「大御所である小松崎茂さんの人の絵に憧れました。パソコンで描くのは効率よく早くきれいに描けるでしょうけど、味わいのある絵をわたしは描きつづけたいのです」
ーー戦車や戦闘機はどのように描いているのですか?
「自衛隊の演習場などで、10式や90式戦車に何度も乗せてもらいました。一般の人は見られない射撃装置なども見ましたよ。電源オフ時にハンドルで旋回ができることなどもね。重いと思ったらそれは凄く軽くてスムーズ」
「戦闘機は、F-2という三菱の戦闘機があるんですが、これもモックアップの段階で呼ばれたことがあります。そのモックアップでは操縦システムが遠いとか、肘が当たるとか、原寸大でわかるから問題点が見えてきます」
「実に細かいところだけど、そういう部分まで見て確認して読み取ってイラストや構造図に反映させています」
ところで、プラモデルの箱絵に写真(プラモデルの完成写真)を使っている場合もある。タミヤもごく少数ではあるが完成した写真を箱絵にしていたことがあった。
プラモデル初心者にとっては、資料としても使える完成写真の方が作りやすいといわれることもあるが、中身は同じプラモデルでも、やはりイラストの方が筆者は魅力的に感じる。
写真では伝えきれない魅力
絵だからこそ表現できることを佐藤さんはどのように感じているだろうか。
ーー写真では表現できない、絵ならではの魅力は?
「F1マシンを例にすると、まずボディの素材であるFRPらしさを絵で表現します。そしてボディの1番きれいなライン、美しい光り方とはどのようなものかをイメージします」
「晴天時と曇天時では光り方も映り込みも変わるでしょう。F1マシンは快晴の時が一番かっこよく見えるんです。その状態を絵にしています」
「でもそれを写真にすると、必ず真っ黒な影になる部分が出てきます。どこを抑えて、どこを強調するか。どう描いたら一番魅力的に見えるのか」
「動くクルマや飛ぶ飛行機の姿などを見て、常にそこを考えています」
ーーセンスと経験が重要ですね。
「大事なことは、描く対象物を好きになることです。自分の好みの対象物じゃなくても、必ずアピールする部分があるはずです。そこを見抜くことが重要です」
「たとえば戦車には一般的にオリーブドラブ(暗くくすんだオリーブ色)という色が使われていますが、これも戦車の種類や国によって色が違います」
「そして、外装の色に少し青っぽい色を載せるんです。そうすると空が写り込んでいる感じに仕上がります」
「戦車が『外にある』という演出が光ってきますね。プラモデルの完成写真ではこの演出は難しいでしょう」
想像以上に深かった箱絵の世界。史実も一緒にビジュアルで理解できるのも「絵」の強味である。
コロナ禍によって、自宅にいる時間が増え、プラモデルの販売が好調という。
わが家にも大量のプラモデルの箱がある。箱絵を描いた人の思いやプラモメーカーのこだわりなどを考えながら、あらためて箱絵をじっくりと眺めてみたくなった。